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8月 江戸川区

ヘクソカズラ   屁糞蔓          アカネ科


また珍名さんに逆戻りだ。

ママコノシリヌグイも相当だが、
本種に至ってはもはや名前を通り越して
誹謗中傷のたぐいである。

その昔私が周りの連中に
うっかりこの花の名を教えたばっかりに、
友達が「ヘクソカズヤ」と呼ばれる事態に至ったのは
痛恨の極みである。
すまん。カズヤ君。

心理学の方でいう肛門期と関係があるのかどうか、
子供はうんちやおならが大好きだ。殊に男の子ときたら。

小学六年生の読者欄で仕事をしていた折、
無邪気な男子児童が送ってくるはがきの優に3割超は
へくそたんげぼで埋めつくされていた。
同年代の女子からは
深刻な性の悩みなどが寄せられていたことを思うと、
なかなか憂鬱な事態ではある。

なんて他人事みたいな顔をしていてはいけない。
私とてれっきとした日本男児であった。
しかるに植物図鑑を眺めていた日高少年が、
この花にものすごく興味を抱いたとしても無理はない。

図鑑にはたいがい
「茎や葉をもむと悪臭があるのでこの名がある」と
由来が記されている。

しかし、それらの文章の執筆者は
実際に揉んでみたことがあるのだろうか?

子供の頃、今よりずっとマジメな実証主義者であった私は
初めて本種を確認した際に迷わず葉をちぎって揉んでみた。
胸はへくそ臭への期待でいっぱいである。

そして、首を傾げた。

妙ちきりんな香りがするのは事実である。
が、排泄物の臭い、
いわゆるインドールやスカトール臭とは程遠い。
クサカズラとかニオイカズラならともかく、
これをヘクソカズラと名付けた命名者の感覚が、
どうにも納得がいかないのだ。

もっとも、万葉の時代には既に
「クソカズラ」との呼び名があったそうなので、
いにしえの万葉人は
このような臭いの屁をたれていたのかもしれない。

そんな昔から知られているものには、
だいたい他にも呼び名があるものだ。
ヘクソカズラにもヤイトバナだのサオトメバナだの
こじゃれた別名があるにはある。
しかしやはりヘクソのインパクトには勝てず、
さっぱり普及しないまま今に至っている。

たまに本種の臭いと命名に関して
疑義を唱えている文献に出くわすことがある。
少なくともその著者はフィールドに出て
揉んでみたんだな、と思い
ちょっと頼もしく思えるのだった。

幼い頃この花が好きだったという女の子がいる。
「アイスクリームみたいで美味しそうだから」と
彼女は語った。
なるほどちょっと霜の降りたアイスの風情だ。
真ん中はブルーベリーソースかもしれない。

その感覚の差を思うと。
やはり男子と女子の溝は深いのか。


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7月 文京区
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8月 江戸川区

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