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「イイ」はイイダコやイイズナなど さまざまな固有名詞に見られる接頭辞である。 いずれも飯の字を当て、 命名もまたご飯に由来することが多い。 イイギリの場合はなぜ飯桐なのかと思ったら、 昔はその大きな葉をご飯を包むのに用いたのだそうだ。 もっともイイギリは分類学的には桐の仲間ではない。 ゴマノハグサ科に属するキリに対し、 イイギリはイイギリ科イイギリ属という 独自の地位を主張している。 幹がやや白っぽくて桐に似ており、 木材としてもゲタなど広く利用されることから、 うっかりキリの名を頂戴してしまったらしい。 イイギリの実る坂道を抜けて植物園に足を運んだら、 足元にその実がひと房落ちていた。 カラスの悪戯だろうか。 ちょうど真珠程の大きさの実は 傾きはじめた秋の陽射しを受け、 その赤味をなお一層増して光っていた。 なお、実は近くで見るといかにも固そうで実際固く、 特に美味しそうなものではない。 そのせいか、こんなに目立つにも関わらず あまり鳥の攻撃を受けることもない。 一説にはヒヨドリが好むともいうが、 彼らもたぶん柿の木があればそちらを選ぶだろう。 ナンテンの実をご存知の方は、 あれを想像していただけるとかなり近い。 イイギリは実りもさることながら樹形が美しい。 幹は太くまっすぐ天に向かい、 枝は車輪状に広がって伸びる。 民家や公園などあちこちに植えられている所以である。 但し本種はイチョウやカラスウリなどと同様、 雌雄異株である。 雄株は当然実をつけない。 実らないのでは本種の魅力は半減してしまうので、 庭木としては雌株の方が好まれている。 赤い房飾りは、 北風が強くなり葉が落ちる頃になっても 辛坊強く残っている。 まだあとひと月ほどは、 イイギリのアーチを楽しめそうだ。 |
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![]() 10月 文京区 |