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4月 国立市

ジロボウエンゴサク 次郎坊延胡索    ケシ科


春を代表する珍名さんである。

エンゴサクという聞きなれない言葉は、
この仲間の中国名だ。

漢方では根元の塊茎を掘り出し、
茹でて乾燥したものを生薬にする。
腰痛や膝痛・腹痛等の痛みの緩和に効能があるそうな。
今でもちゃんと延胡索の名前で市販されており、
有名な「安中散」の鎮痛作用を司る主成分は、
この延胡索である。

ただし漢方薬に使われるのは同属の別の植物で、
ジロボウに同様の効果があるかどうかは判らない。

そもそも植物の薬効成分は
その大概がアルカロイドであり、毒物だ。
用法を間違えば生命に関わる。
くれぐれも素人療法に用いたりしないよう。念のため。

さてエンゴサクの方はこれで片付いたが、
問題はジロボウである。
漢字では次郎坊と書く。
次郎坊がいるからには太郎坊や三郎坊もいそうな勢いだ。
坊屋三郎みたいだな三郎坊。

残念ながらタロボウエンゴサクや
サブロボウエンゴサクは実在しない。

しかし太郎坊はちゃんと別に存在している。
伊勢地方でスミレの花を呼ぶ名前なのである。

同地方の子供たちはむかし、
本種とスミレの花の後に伸びる部分(「距」と呼ばれる)を
互いに引っ掛け、
引っ張って遊んだのだという。
おそらく松葉相撲みたいなものだろう。

子供らはこの良きライバル同士に
太郎坊と次郎坊の名を与えて楽しんだ。

時を経て太郎坊の方は地方名に留まったが、
次郎坊は標準和名に採用され、
ここに晴れてジロボウエンゴサクなる名前の植物が
誕生したのであった。


その名前ほどに珍しい花ではない。
しかし同属のムラサキケマンなどに比べると、
見かける機会はぐっと少なくなる。
たまにそれらしいものに出くわしても、
ヤマエンゴサクやエゾエンゴサクといった
そっくりさん連中との区別はなかなか難しい。

種の同定は実物をたくさん見ることで、
感覚的に判るようになるものだ。
これがジロボウの場合、
サンプル自体にあまり出会えないのだから
ちょいと始末が悪い。

写真は谷保の雑木林にひっそり生えていた一株である。
やや赤味を帯びた花の色や距の形などから
ジロボウエンゴサクであると同定したが、
正直いまいち自信はない。
もっとたくさん見つけて目を養いたいものだ。

薄紫色の細長い花は、
垢抜けない名前とは裏腹に
どこかノーブルな空気を漂わせている。


翳った木立の間で、
そこだけスポットが当たったように立ち尽くす
ジロボウエンゴサクの花であった。



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4月 国立市
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4月 国立市

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