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11月 文京区

カリン   花梨      バラ科


好きな樹木だが、
ちょっとこの名前はずるいとも思う。

だいぶ前に友人達と磐梯に旅した時である。
帰りに立ち寄った土産物屋で花梨の実が売っていた。
黄色く熟したリンゴ大の果実は
たいへんに魅力的である。

そもそも私は梨が大好きだ。
梨という字が含まれているだけで、
大変にイメージが良くなってしまう。
佐藤江梨子もだから結構好きだ。
しかし梨花は別にそうでもない。なんでだ。

閑話休題。

名前の美しさもさることながら、
カリンの実は素晴らしい芳香を放つ。
嬉しさのあまり皆でこぞって買い込んでしまった。
色香に惑わされたと言っても過言ではない。

さてここからが問題である。
カリンの実ってどーやって食うのか。

何を隠そう、この一見おいしそうなくだものは
ビックリするほど硬いのである。
これは果肉に石細胞が多く含まれるためで、
なまなかな果物ナイフなどでは歯が立たない。
ナイフで歯が立たないなら人間の歯は論外だ。
ましてや並の人間以下である私の歯なぞ。

さらに言えば味も生食向きではない。
ずいぶん前のことなので忘れてしまったが、
何かとにかくそのままでは食べられないのである。
調べてみると果実酒にするかはちみつ漬けにする以外に
利用方法はないらしい。

熟考の末、はちみつ漬けで決着をみた。
タッパーウェアに浸かった花梨の実は、
しばらく冷蔵庫の中で芳香を放っていたものだ。
頃合を見計らって齧ってみた。
やはりなんてことない味だった。

かくして折角の磐梯土産は、
冷蔵庫の芳香剤としてその生を全うしたのである。
キムコだよ。

もっともカリンはご存知のように喉にはよろしい。
煎じるか、あるいは
実を漬けたはちみつをお湯で溶いて飲む。
後者はなかなか美味しそうだ。
はちみつの味だろうけど。


カリンはバラ科に属し、
木瓜に近い仲間の植物である。
言われてみればなるほど実の感じはボケそっくりだ。
ボケの実もまた生食は出来ない。
果実酒の原料にするのが関の山である。

近所にはなぜかカリンの木が多い。
その樹皮は写真にあるように独特の迷彩模様を描く。
ちょっと前に流行った意匠ではある。
もっともこの手のアーミー柄はカリンの専売特許ではなく、
シロマツなどの幹にも見られる。
樹皮がパズルのように剥がれて仲々面白い。


さて、土産のカリンには実はもう一つ落とし穴があった。

切ろうとした際に気づいたのだが、
果皮にビロード状の細かい毛が生えていたのである。
カリンの実はすべすべのつるつるだ。毛はない。

土産物はどうやらカリンではなく、
類似のマルメロの実であるらしかった。

マルメロも利用法はカリンとほぼ同じなので、
はちみつ漬けにしたこと自体は間違ってはいない。
んでも値札には確かに「かりん」って書いてあったのに。

混同も無理はない。
信州地方などではこのマルメロの方を
カリンと呼んでいるらしい。
分類としてはあくまで別な植物なのだけれど。

欧米ではマルメロはポピュラーな庭木であり、
私の好きなサキの短編に
「マルメロの木」と題する一篇がある。
「ミツバチのささやき」で知られるビクトル・エリセも
「マルメロの陽光」なる映画を撮っているが、
こちらは例によって未見。

てな次第で、
この文章は
結局のところ
ちっともカリンの実の話じゃないのだった。

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10月 文京区

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