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9月 東村山市

マントカラカサタケ   外套唐傘茸      ハラタケ科


ほれぼれするような異形である。

西武園にほど近い八国山緑地を散策中、
笹薮の中に高さ30センチを越す棒が
にょっきり突き出しているのに出くわした。
てっぺんにはご丁寧にも握りがついている。
まごうかたなきマントカラカサタケの幼菌だ。

私がこの妙ちきりんなきのこの姿形を最初に認識したのは、
「千葉いきもの図鑑」だった。

むろん他のきのこ図鑑にも紹介されてはいる。
しかしその図版の多くは成長した姿、
成菌の状態なのだ。

傘を開いてしまえば、
マントカラカサタケはごく普通のきのこである。
サイズ的には傘の直径30センチと相当に大げさだが、
写真ではその辺の事情はなかなか伝わらない。

だが、傘が開く前のこのオブジェはどうだ。
優に膝丈を越す高さに聳え立つ、
カリメロの帽子をかぶった森の杖。
その風貌は菌類でも屈指の異彩を放っている。

この異様な幼菌を大々的にフィーチャーしていたのは、
実に「千葉いきもの図鑑」だけだったのである。
車窓から発見して驚いた際のエピソードを添えて。

著者の写した1枚の写真に私は瞠目し、
他のきのことは一線を画する変なやつとして
強く印象に残ったのだった。

これは同書が検索図鑑である以前に、
前園泰徳というひとりの青年による
貴重なフィールドワークの記録であることを裏付けている。
彼が実際に自分の目で見た印象、
感動がリアルに伝えられているのだ。
その視点は研究者よりもむしろ子供のそれに近い。

「これはマントカラカサタケの幼菌である」
菌類学者は淡々とノートを取るだろう。
対する前園君の視点はどうなのか。
「うわー、何これ。変なのー!」

彼にとって世界はまだまだ驚きに満ちているに違いない。
素晴らしいことではないか。

本種マントカラカサタケは、
カラカサタケMacrolepiota procera に酷似し、
以前は同種とされていた。
しかし研究が進むうち、
さまざまな点で異なることが判って
別種ということになった。
但し1999年版の手元の資料では
まだ種小名が確定しておらず、
学名はMacrolepiota sp. となっている。
要するに"Macrolepiota 属の一種"なのだ。

同定のポイントは、
カラカサタケの地色が淡灰褐色であるのに対し、
マントカラカサタケは白色である点など。
また、後者は傘が開くと柄の周りに大きく
つばが垂れ下がる。
和名はこのつばをマントに見立てたものである。

カラカサタケは食用菌とされているが、
多くの図鑑にはマントカラカサタケは食毒不明とある。

もっとも本邦の誇る菌類学者であった故清水大典氏は、
「すき焼き、鉄板焼き、バター炒めに合う」と
言い切っておられる。
マントカラカサタケに限らず、
氏の著書は他の文献よりも食用菌が多い。
食いしん坊だったのかもしれない。

ちなみに清水氏は冬虫夏草の世界的な権威でもあった。
これらの寄生菌に関しては、
さすがに食用ではなく「薬用」と明記されている。
良かった良かった。

きのこ人口の拡大を生涯提唱し続けた氏に
もって瞑すべし。

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9月 東村山市

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