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4月 文京区

マツバウンラン   松葉海蘭    ゴマノハグサ科

風にそよぐのっぽで華奢な野の花である。

もっとも野の花と呼ぶにはやや語弊がなくもない。
比較的最近帰化したお客さんなのだ。
1941に京都市伏見区で確認されたのが最初とされる。
以後、西日本を中心にその分布を拡げ、
現在は北関東以西でほぼ定着しているという。

それでも私の小さい頃の記憶に
この花の姿はない。
初めて認識したのは数年前に広島に赴いた際のことだ。

平和記念公園前の芝生に一本だけ、
いきなり高さ4〜50センチはあろうかという
細い草が突っ立っていた。

茎にはまばらに小さな薄紫色の花がついており、
派手ではないがなかなか可憐である。

なんだろうと思って目を凝らしてみたが、
どうにも花の形に見覚えがない。
右の写真にあるように、
真ん中が白くぷっくりと膨れて
その上下に花弁が開いている。
こんな形の花を咲かせる植物は知らないぞ。

知らないのも道理で、
これはウンランの仲間特有の花なのだ。
日本で現在見られる数種類のウンランは、
そのほとんどが割に近年の帰化種である。
野草の図鑑には載っていないことも多い。

ただ、ガーデニングに詳しい方なら
この形に見覚えがあるかもしれない。
鉢植えや庭先で親しまれている
リナリア(ヒメキンギョソウ)は、
まさしくマツバウンランと同じLinaria属の花だ。
園芸種だけにもっと華やかに咲き乱れるが、
花の形はまったく一緒である。


広島でマツバウンランを見かけたちょうど同じ頃、
近所の道端に咲く花の名前がわからずに
困っていたことがあった。
写真を検討してみるとどうも花が似ている。
図書館で帰化植物図鑑を検索してみた結果、
やはりウンラン一族のツタバウンランであることが判った。

ところが手元の図鑑には
「ウンランの仲間で日本に野生しているのは、
マツバウンランとホソバウンラン、
そして在来種のウンランの3種類である」と
はっきり記されている。

確かにツタバウンランはLinaria属ではなく
Cymbaralia属ではあるが、
いずれもゴマノハグサ科の植物で近縁種である。
また、園芸種のリナリアも
逸出して野生化している場合があり、
このような書き方は正しくない。
おかげでツタバの名前調べるのに苦労したんじゃ。

図鑑の記述を鵜呑みにしてはいけないのである。
もっとも、ましてや私の文章を、でもあるのだが。


広島で見てから数年、
心なしかあちこちで
マツバウンランの花を目にするようになった。
以前は認識していなかったせいもあるだろう。
しかしその分布は確実に拡がっているように思える。


いつも足を運ぶ公園の池のほとりに、
昨年までは見られなかったはずの本種のコロニーがあった。
遠目には薄紫の霞がかかったように見えて美しい。
百本は越すであろう細い細い花茎は、
春風に煽られてあえかに靡いていた。

一見はかなげなようでいて、
本当はとってもたくましい
マツバウンランの群生である。
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4月 文京区

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ツタバウンラン    5月 新宿区
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4月 文京区

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