ついでに言えば葉っぱもない。
学校も試験もなんにもない。
大したものぐさ太郎である。
とはいえ植物といえど生きてゆくには養分が必要だ。
光合成という生産活動を怠けているナンバンギセルは、
どこからエネルギーを補給しているのか。
自分で作らない以上は、
他人の作ったものを頂戴するしかない。
すなわち、寄生だ。
都内の某公園内の池のほとりにススキの株がある。
盛夏の頃にごそごそと株を掻き分けてみると、
根元の方に変てこなキノコのようなものが
ひょろひょろ生えている。
ススキの養分をちゃっかり横取りしている、
ナンバンギセルの姿なのだった。
ナンバンギセルを擁するハマウツボ科は、
寄生植物どもの集団である。
いずれも葉を持たず、葉緑素も持たない。
養分をちょろまかす相手は種類によって異なる。
たとえば春先に生えてくるヤセウツボは
マメ科の植物に仕送りを受けている。
アカツメクサ(ムラサキツメクサ)の群れに混じって
赤茶けた花の塔が突っ立っているさまはなかなか異様で、
最初に見た時は少々驚いた。
そんなパラサイト連中にも花は咲く。
受精し、子孫を残さねばならないからである。
ナンバンギセルの俯いた顔を
そっと指で持ち上げてみた。
煙管の奥には大きな花芯が見える。
蘭の花にも似た美しい眺めである。
多くの生物がそうであるように、
彼等もまた種の保存と繁栄のために
その一生を捧げているのだ。
まれに山野草の店で
ナンバンギセルの鉢植を見ることがある。
当然宿主であるイネ科の植物と一緒に植わっており、
なかなか面白い盆景をなしている。
だが寄生植物のケアはきわめて難しい。
多くの鉢はひと夏限りだろう。
撮影地には毎夏足を運んでいるが、
毎年ちゃんと同じ場所でこの妙ちきりんな植物に逢える。
栽培植物ではなく、
野の花として愛でて頂きたいと切に願う次第である。 |