渡来はビロードモウズイカ同様に明治時代。
観賞用に持ち込まれたものらしい。
野生化して広がったとする説と、
人為的にばら撒かれたとする説がある。
いずれにせよ、最初に植えられたのが
東大付属の小石川植物園であったことは確かなようだ。
上の写真は、この記念すべき場所での撮影である。
明るい草地に元気に花を咲かせる姿は、
いわば最初の移民たちの直系の子孫なのだ。
名前は文字通りで、
庭に咲くセキショウに似た植物の意味。
…のはずなのだが。
どれどれと思ってセキショウなる植物を調べてみると、
全然違うので腰を抜かしてしまうのだった。
ニワゼキショウはアヤメ科で、
ご覧のような6弁の花を咲かせる。
一方のセキショウはサトイモ科で、
花はといえば細いヤングコーンのような地味なものが
葉の間からちょろりと出ているだけ。
同じサトイモ科のカラーやアンスリウムの、
白や赤の苞を取った
真ん中の花穂を想像して頂ければよい。
確かに葉は似てなくもないのだが、
どちらも単子葉植物なので当然ちゃあ当然である。
このような妙な命名法は、
ハナショウブとショウブの関係を思い出させる。
ハナショウブはアヤメ科のアヤメに似た派手な花だが、
菖蒲湯に使うショウブはサトイモ科で、
花はやはりセキショウに似ており地味くさい。
以前調布市の深大寺で見たが、
注意しないと気付かないまである。
ちなみにショウブ(菖蒲)は本来
セキショウ(石菖)の中国名だったという。
ああ、ややこしい。
いったいなぜセキショウやショウブは、
大して似てない植物にその名が引用されているのか。
現在の我々にはさほど馴染みはないが、
サトイモ科のこれらの植物は
かつて漢方薬として盛んに利用されていた。
思うに当時の人々にとって、
セキショウやショウブはイネやムギなどの穀物類に次ぐ
重要な単子葉植物だったのではないだろうか。
そして、そんな彼らがハナショウブやニワゼキショウの
すうっと伸びた葉を目にして、
とっさにこれら身近な植物の名を
思い浮かべたとしても不思議はない。
ニワゼキショウにはナンキンアヤメの別名もある。
分類からいえばこっちの方が正しいわけだが、
個人的にはやはりニワゼキショウを推したい。
南京よりは庭の方が親しみがあるので。 |