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2月 文京区

オオイヌノフグリ  大犬の陰嚢    ゴマノハグサ科

日当たりのよい草地に散りばめられたブルーの星は、
顔なじみの春の使者である。

とは言っても、ウチの近所では
2003年の開花確認は2月5日だった。
昨年なんか1月24日である。
いずれにせよ春の声を聞くにはちと早い。

それでも毎年この花に出会うたび、
なんとなく風が暖かくなったように感じる。
太陽の下でないと開かないせいもあるだろう。

曇りの日や夕方になると、
オオイヌノフグリは小さな花弁を閉じ
細い首をうなだれてしまうのだ。

それにつけても毎度脱力するのはこの名前である。
漢字名を見ればなおさらだ。
大犬の陰嚢ときたもんだ。
へくそ蔓も真っ青の下ネタだわさ。

確かに犬っころのそれは、
人間のようにびろびろのしわしわではなく可愛らしい。
にしても陰嚢はあんまりだよ。

断っておくが、この和名の意味は
「『巨大な犬』の陰嚢」でも
「犬の『巨大な陰嚢』」でもない。
先にイヌノフグリという植物があり、
本種はそれより草体や花が大きいのである。
つまり「巨大な『犬の陰嚢』」だ。
あまり変わらんか。

在来種のイヌノフグリは花が終わると結実する。
ちょこんと2つ並んだハート型の実には
細かい毛が全体に生えており、
これが犬のふぐりに酷似しているってえ寸法なのだ。
山と渓谷社「春の野草」では
「笑ってしまうくらい似ている」と評されている。
私も実物を見た時、やっぱりちょっと笑った。

帰化種であるオオイヌノフグリの果実も
似たような感じではあるが、
こちらは残念ながら今いち陰嚢テイストは薄い。

だったら何か違う名前をつけても良さそうなもので、
いくつかの別名がある。
ホシノヒトミなんてのは、
少女趣味に過ぎて少々気恥ずかしい。
天人唐草の名でも知られており、
山岸涼子の同名の短編は、
この草の名前をモチーフにした怖い佳品である。


オオイヌノフグリの花粉は、
昆虫によってめしべに受粉される。
いわゆる虫媒花だ。
しかしまだ雪もちらつく2月〜3月上旬、
花を訪れる虫たちの姿は決して多くない。

こんな時、ブルーの星々は
呑気に白馬の王子様を待ち続けるような真似はしない。
さっさと自家受粉をしてしまう。
従って結実する確率は非常に高い。

本種が日本で初めて確認されたのは
1880年頃とされている。
場所は東京。
その後あっという間に全国に拡がったのは、
この旺盛な繁殖力に拠るところが大きい。


そんな路傍の普通の雑草だが、
私はこの花が大好きだ。
芝生や畑のへりに小さな春の報せを探すのは、
早春の散策の楽しみのひとつである。
そして地べたに這いつくばっては、
毎年同じような写真を撮り続けている。

たまに趣を変えてみようと、
"背中側"から撮ったのが右の一枚。
まだ優しい太陽の光を追いかけて
そのアンテナを精一杯開いている姿を、
後から目線を落として捉えてみた。

従ってライティングは半逆光になっている。
ポートレートの基本だね。


本種はやはり春の使者である
ホトケノザやヒメオドリコソウと混生していることが多い。

頬を撫でる風は冷たくとも、
その一角だけは
スポットが当たったように春の景色なのだった。
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2月 文京区
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2月 文京区

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