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3月 国分寺市

シュンラン  春蘭    ラン科

春の蘭だから春蘭。

シュンランはカタクリと並ぶ
スプリングエフェメラルの代表種であり、
日本が世界に誇る野生ランである。

ゴージャスなイメージがつきまとうランの花だが、
国産のランはいずれもつつましくシックな美しさを身に纏う。
シュンランも例外ではない。

鉢植ならともかく、
野外でこの背の低い萌黄色の花を見出すのは
なかなか慣れがいる。
写真のものは公園内での撮影で、
だいたいこの辺に生えているってのを知っていたから
見つけられたようなものだ。

クローズアップすればそれなりに華やかに見えるものの、
咲いている状況は
一番下の写真に示したような感じになる。

土なんか被っちゃってる場合もあり、
花っつうよりキノコ然としてたりもする。
温室で咲き誇るカトレアやデンドロビウムとは
だいぶ趣を異にする花だ。

しかしシュンランは美しい。

一茎一花性であることも手伝ってか、
たたずまいは凛とした孤高の雰囲気を放つ。
萌え出した若芽の色彩は
爽やかに日本の早春に相応しい。


そんなどこか控え目な国産のランの愛好家は少なくない。
殊にシュンランやエビネは昔から多くの人に好まれ、
栽培されてきた。
適度な改良も加えられ、
明るい橙色や淡い茶色を帯びた美しい品種も存在している。
これらの鉢を愛でるのは、
オモトやイワヒバ同様に
古来通人の粋な道楽であった。

ちなみに学名はCymbidium goeringii で、
花屋の店先を豪華に彩るシンビジウムと
同属であることがわかる。
そりゃ美しかろうってもんさ。


とはいえ現在シュンランの栽培は別に
金持ちの道楽や貴族趣味ではない。
その鉢植はガーデニングショップの一角などでも
普通に目にすることができる。
ただ、知らないと気づかないことも多い。
葉の形は道端のジャノヒゲやヤブランとそう変わりはないし。
しかしよく目を凝らせば、
その根元の方に慎ましやかな蕾の姿を
見つけることもできるだろう。

そんな時、私はちょっと得した気分になる。


このように小粋なシュンランだが、
一方で「ジジババ」なる
いささか乱暴な別名をも頂戴している。

これはぺろっと下がった唇弁を婆さんに、
中央の雄しべの部分(写真では隠れている)を
爺さんのはげ頭に見立てたものであるらしい。
言われてもあまりピンと来ないが。
各地で広く使われているところをみると、
昔のジジババはこのような生き物だったのかもしれん。

由来はともかく、
この怪しい名前が教えてくれることがひとつある。

シュンラン栽培が通人の趣味であったのに対し、
野生のそれは市井の人々にとって、
そんなくだけた愛称をつけられるほど
ごく身近な野草だったのである。

ついでにいえば食用にもされたらしい。
蕾を天ぷらや酢の物にしたり、
花は塩漬けにして白湯を注ぎ、
蘭茶としてめでたい席に用いられた。


さまざまな形で
幅広く日本人に愛されてきた、
シュンランの花である。
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3月 国分寺市


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3月 国分寺市

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