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10月 あきるの市

ツリフネソウ   釣船草      ツリフネソウ科


釣船草とは釣り船のような草なのか、
船を釣っているような草なのか。

判然としないので調べてみたが、
例によって諸説があるらしく結論は出なかった。

「生花で使われる"釣船"なる花器に似ているため」説も
かなり有力だ。
しかし華道に由来する名が野の草に付けられるとは
俄に信じがたい。

いけばな・ガーデニング・植物学は
ニアミスこそすれ各々ベクトルの異なる分野である。
互いにちょっと仲が悪かったりもする。

元来はいずこも同じ植物好きなのだろうに。
ものの愛し方は人それぞれだから仕方ないのだが。

私自身は、この花のフォルムからは
どちらかといえば船よりも魚を連想する。
なんか真ん中辺のぷくっとした感じが、
フグや金魚のお腹みたいなのだ。
明るいピンクの色調と相俟ってなかなか可愛らしい。


この花に初めて出会ったのは
石神井公園の池のほとりだった。
ホトトギスの項にも書いたように、
秋冬に楽しめる野の草花は決して多くない。
そんな中、橋のたもとに点々と咲くツリフネソウは
ひときわ目を惹いたのだった。

本種は湿地を好む。
湿地はご存知のように自然の池沼の周辺には
普通に存在している。
足を踏み入れる分にはじめじめぬとぬとしていて
あまり快適な場所ではない。

だから水辺を「親水公園」として整備する際は、
当然のように埋め立てられてしまう。
お子様がうっかり踏み込んだら大変だし。

だが、湿地は生態系はもとより
水質浄化に非常に大きな役割を果たしている。
湿地は動物プランクトンの発生を促し、
いわゆる生物濾過の働きをするのだ。

周辺の湿地を失った池沼は濁り汚れ、
やがては人工的な浄化が必要となろう。
それはもはや池でも沼でもなんでもない。
只のだだっ広い屋外プールである。

とはいえ、湿地の存在は
その近辺に住む人達にとって
決して居心地のよいものではない。

確かに湿地にはツリフネソウやミズアオイが美しく花開く。
しかし一方でマムシが棲み、
ユスリカやガガンボの育つ温床でもある。
護岸されない水辺は水害の原因ともなりかねない。

都内最大規模の「水のある公園」、
水元公園を擁する葛飾区のパンフレットは記している。

「自然の生命の泉を身近に復活するための
ビオトープ作りの努力は、
さまざまな『いごこちの悪いもの』を
住民が受け入れなければはじまりません」

自然との共存共栄。
言葉にするのはたやすいが、
実際にはそんな生易しいものではないのだ。


9月後半から10月にかけて、
東京は雨の日が続いた。
ようやく見つけた晴れ間に訪れた山あいの土地は、
その姿をすっかり湿地に変えていた。

初めて見る、ツリフネソウのお花畑だった。

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10月 あきるの市

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