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人間、自分がラクをする分にはやぶさかでないが、 他人にやられるとむかつくものである。 とはいえ、生きとし生けるものはみな 他の何かに拠って生活している。 人間だって普通に魚を獲ったり 野菜を食ったりして生きているが、 その代価を海なり大地なりに対して支払うことはない。 寄生は依存する対象との関係が 特にわかりやすいというだけで、 ひとつの生活様式に過ぎないのである。 他の植物と同様、ヤドリギにも目立たないが花は咲く。 そして晩秋になると5ミリほどの大きさの実をつける。 中が果汁で満たされた柔らかな液果だ。 ヒヨドリをはじめとする野鳥に好まれ、 盛んについばまれる。 果実は黄色いものとオレンジ色に熟するものがあり、 後者はアカミノヤドリギとして区別されることもある。 以前、美瑛に旅した際に林の中に落ちていた枝は、 一面に鮮やかな橙色のビーズをみのらせていた。 この奇妙な植物の、一生でもっとも美しい時期である。 都内のヤドリギも実をつけまいかと 何度も足を運んだのだが、 この秋冬は残念ながら実りは見られなかった。 いずれ撮影のチャンスがあれば、また紹介したい。 そんな美しいヤドリギの実には強い粘性がある。 種子は粘液に保護されたまま、 消化されずに鳥の身体をスルーして排泄される。 うまい具合に樹の幹なんぞに垂れられると、 旺盛なる粘着力でしっかりとへばりつき、 その場所に根を生やしてゆくのである。 図鑑にはしばしばヤドリギが根を下ろした部位の 断面写真が紹介されている。 根っこと聞いて普通に想像するような、 ひょろひょろした代物とは訳が違う。 この寄生根と呼ばれる特殊な養分横取り器官は、 くさび型にがっちりと宿主の髄まで打ち込まれている。 引っ張ったくらいでは間違っても抜けない。 鳥に糞引っかけられた樹こそいい迷惑だ。 右下の2枚は皇居東御苑内の ケヤキの幹に生えたものである。 上のものよりも低い場所に繁っているため、 ちょっと寄ることができた。 強風をものともしない丈夫な構造の草体が 判って頂けるだろうか。 落葉樹に寄生するヤドリギが常緑樹なのは、 宿主が葉を落としている間に 存分に日光を浴びるためだとする説がある。 なるほど、理屈だ。 しかし、この一族のホザキヤドリギはなぜか落葉性で、 大家さんと一緒に丸裸になってしまう。 付き合いの良いことだ。 おかげで先の理屈とは全然噛み合わない。 自然界のシステムなんて、 ひとつの公式で そう簡単に説明できるものではないのだった。 なお、サクラなどには ある個所から急に たくさんの細い枝が生えてくる病気がある。 枝の集まりを天狗の巣に見たてて 天狗巣病と呼ばれるこの病気の症状は、 春先になっても花がつかず 一見ヤドリギの寄生のように見えなくもない。 近くに寄ってみると様子が違うので、 よく観察すること肝要。 |
![]() ![]() 12月 千代田区 |
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