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4月 東京都練馬区

アゲハ(ナミアゲハ)       Papilio xuthus
分布:北海道〜九州


漢字では揚翅蝶。
家紋として紋付や墓石にもデザインされているくらい、
日本人には馴染みの深い蝶である。
その姿形の認知度と知名度は、
なみいる昆虫でもカブトムシと並んでずば抜けて高い。
そしてカブトムシ同様に、
幼虫もまたよく知られている。

小学生の頃、近所にカラタチの生垣があった。
柑橘系のこの植物は茎に凶悪なトゲが生えている。
侵入者を拒む非常に有効な障壁になる一方で、
この生垣はアゲハやクロアゲハの幼虫たちの
レストランにもなっていた。

アゲハの幼虫は例の緑色の芋虫だ。
ただ、もっと小さいうちは見た目が違う。
黒地にペンキで塗ったようなホワイトがかかった色味で、
鳩糞にたいへんに似ている。
敵の目をくらます擬態なのだろう。

しかしカラタチの柔らかい緑色の新芽の上に
そのようなうんこが乗っていれば却って目立つ。
私は生垣の枝ごと折り取って持ち帰り、
壺の中に入れて飼っていた。

やがて子供は脱皮しておなじみの緑色の虫になる。
芋虫は江戸川乱歩をはじめあまり得意ではない私だが、
アゲハの幼虫はなかなかに可愛らしい。
大きな眼状紋がくりくり目玉に見えるせいだろう。
頭をこづくとオレンジ色の角を出して怒る辺りもキュートだ。
肉角は独特の香気を放つ。
微妙にシトラス系の気がするのは食草のせいか。

アゲハの幼虫の食欲は旺盛である。
幼虫の間は育ち盛りなので仕方がない。
耳を済ませるとしゃくしゃくと食べる音が聞こえるくらいだ。
食事中は極力音を立てませんように、と
サンジも言ってるぞ。
とはいっても相手は子供だから
少々のマナー違反は大目にみたい。

連中は毎日カラタチの葉を大量に食べ、
大量にうんこをたれる。
うんこうんこと書いてはいるが、連中は草食のため
排泄物は臭くもないしそんなに汚なくもない。
水に溶いてみるとタバコの葉のような細かい屑になる。

私は食べ盛りの子供たちのために
毎日せっせと食料を調達した。
ある時父に尋ねられたことがある。

「お前、そのカラタチどこから持ってきてんだ?」
「近所の生垣」
「そりゃ泥棒だよ」

本当だ。言われるまで気付かなかった。

私の犯罪行為も辞さない育児法により、
子供らは無事に蛹になった。
やがて羽化した蝶は、
壺の口から次々に飛び立って行った。

私がアゲハの里親を演じたのはこの年だけである。
泥棒しないと食糧が調達できないのでは是非もない。

過日、かつての家の近所を足の向くままに訪れてみた。
生垣はなく、代わりに建売らしい新しい家々が並んでいた。

だからもう泥棒はできない。

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4月 東京都江東区

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