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近所の秋雨に濡れるミカンやカラタチの葉にも、 孵って間もないアゲハやクロアゲハの子供たちが 鎮座ましましていた。 やがて秋の高い空にはばたいてゆくのだろう。 ここに紹介するアカタテハにも 夏型と秋型がある。 ただしキタテハと違って両者の差はあまりない。 8月末に撮ったこの写真が、 どちらのタイプかは私にも判らないのだった。 いずれにせよ、地味な印象のあるタテハの仲間では なかなかの洒落者である。 個人的には、 バネッサ・パラディと同じファーストネームなのが この蝶のイメージを決定づけている。 もっとも学名の場合は属名+種小名なので、 本当はバネッサはアカタテハ一族の苗字なのだが。 昆虫の生息状況は、 その食物の分布に深く結びついている。 蝶の場合は幼虫の食草に左右される場合が多い。 アカタテハの子供たちの主食は、 とげとげで知られるイラクサの仲間である。 グリム童話なんかにも たちの悪い植物としてしばしば登場するヤツだ。 きっとヨーロッパの凶悪な後添たちが 継子の尻を拭うのに用いたに違いない。 憎まれっ子であるイラクサ類はさすがに繁殖力が強い。 新築のビルの花壇などでも、いつのまにか カラムシやヤブマオ(いずれもイラクサ科の植物)が 芽吹いているのを見かける。 子供の食草が普通種であるアカタテハも やはり普通種だ。 九州から北海道まで幅広く見られる。 その割にあまり姿かたちの認知度が高くないのは、 とにかく逃げ足が速いからに他ならない。 じっと静止して休んでいても、 人の気配を察するとたちまち飛び去ってしまう。 翅を畳んでいるところを遠くから見ただけでは、 タテハ類であることは見当がついても とっさに種類まで見極めるのは難しい。 写真は寛大にも私の接近を許してくれた1頭である。 蕾のふくらんだキツネノマゴの葉に止まり、 じっと太陽の光を浴びている。 その前翅の赤い模様は、 晩夏の傾きかけた陽光に透けて ステンドグラスの輝きを放っていた。 |
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![]() 8月 東京都調布市 |