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8月 東京都調布市

アカタテハ      Vanessa indica
分布:日本全土


あっという間に秋になってしまった。

昆虫は一年を通じて見られるが、
やはり旬は夏である。
あんなにかしましく響いていた蝉の歌声はいつしか影をひそめ、
秋の虫たちのそれにとってかわっている。
その音色は涼しげではあるが、
どこか物寂しさが漂う。

そんな中、蝶の仲間はまだまだ元気だ。
連中はキタテハの項で述べたように、
年に数回発生する種が多い。
春夏の旬が過ぎても、秋型がスタンバイしている。

近所の秋雨に濡れるミカンやカラタチの葉にも、
孵って間もないアゲハやクロアゲハの子供たちが
鎮座ましましていた。
やがて秋の高い空にはばたいてゆくのだろう。

ここに紹介するアカタテハにも
夏型と秋型がある。
ただしキタテハと違って両者の差はあまりない。
8月末に撮ったこの写真が、
どちらのタイプかは私にも判らないのだった。
いずれにせよ、地味な印象のあるタテハの仲間では
なかなかの洒落者である。

個人的には、
バネッサ・パラディと同じファーストネームなのが
この蝶のイメージを決定づけている。
もっとも学名の場合は属名+種小名なので、
本当はバネッサはアカタテハ一族の苗字なのだが。


昆虫の生息状況は、
その食物の分布に深く結びついている。
蝶の場合は幼虫の食草に左右される場合が多い。
アカタテハの子供たちの主食は、
とげとげで知られるイラクサの仲間である。
グリム童話なんかにも
たちの悪い植物としてしばしば登場するヤツだ。
きっとヨーロッパの凶悪な後添たちが
継子の尻を拭うのに用いたに違いない。

憎まれっ子であるイラクサ類はさすがに繁殖力が強い。
新築のビルの花壇などでも、いつのまにか
カラムシやヤブマオ(いずれもイラクサ科の植物)が
芽吹いているのを見かける。

子供の食草が普通種であるアカタテハも
やはり普通種だ。
九州から北海道まで幅広く見られる。
その割にあまり姿かたちの認知度が高くないのは、
とにかく逃げ足が速いからに他ならない。
じっと静止して休んでいても、
人の気配を察するとたちまち飛び去ってしまう。

翅を畳んでいるところを遠くから見ただけでは、
タテハ類であることは見当がついても
とっさに種類まで見極めるのは難しい。

写真は寛大にも私の接近を許してくれた1頭である。
蕾のふくらんだキツネノマゴの葉に止まり、
じっと太陽の光を浴びている。

その前翅の赤い模様は、
晩夏の傾きかけた陽光に透けて
ステンドグラスの輝きを放っていた。
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8月 東京都調布市

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