昆虫の身体の一部という
本来の機能から解放されたそれは、
なにか精巧に作られた装飾品のようで
私はいつも足をとめて覗き込んでしまうのだ。
そんな美麗な衣を身に纏っているにもかかわらず、
子供たちの覚えは今一つめでたくない。
図鑑のオサムシの項を飾る挿画は、
たいがいミミズと格闘している図だからである。
なんぼ男の子でもミミズはあまり友達にしたくない。
あのスケバン刑事麻宮サキですら、
梁山泊のミミズ部屋に5時間放置されて
人事不省に陥ったくらいである。
養殖場の管理人エンジェルは可愛がっていたが。
まあそんなことはどうでもよろしい。
オサムシはハンミョウ同様、
長い足で大地を走り回るハンターだ。
決してミミズを主食にしている訳ではないが、
図鑑の編纂者としては
自分の倍以上のサイズの敵を襲撃している様子に
インパクトを感じるのだろう。
おかげで子供たちの頭には、
オサムシ=ミミズ捕食者のイメージが
焼き付けられてしまった。
相当イヤなファーストインプレッションである。
この甲虫の鞘翅の輝きに
魅せられてきた私としては、
ミミズを食ってないオサムシの生態を
写真に収めることは長年の夢だった。
ところが相手は何しろ走り回っている。
おとなしくモデルになってくれる気などありはしない。
業を煮やしてとっ捕まえてみた。
私の掌の中で彼は神妙にしていてくれたが、
右手にオサムシを握っている状態で写真は撮れない。
仕方がないので放してやると、
慌てふためいてどたばたと駆け出し、物陰に身をひそめる。
物陰では写真が撮れないので陰になっている物をどける。
相手はビックリして再び猛然とダッシュする。
上の一枚は、
十数分にわたってそんなことを繰り返した挙句に
押さえたスナップなのだった。
道ゆく人々の視線が少々痛かったことはさておき、
私は満足した。
相手をしてくれたオサムシ君に一礼し、
その場を離れたのだった。
ちなみに下の写真は逃走中の犯人である。
色味が違うのはフラッシュを焚いたためで、
微妙な色彩を再現するのは難しいものだ。
但し、いずれにせよスタンダードなアオオサムシにしては
やや緑味が薄い。
オサムシ類は地域変異が非常に多いので、
この個体も亜種である可能性がある。 |