この蝶はグルメではないので、
甘い水だろうが辛い水だろうが大して気にはしない。
南アルプス天然水でもホースで撒かれた水道水でも
文句を言うことなく一心に吸水している。
そんな彼等の性質を知っている子供は、
たいがい蝶寄せの術を心得ているものだ。
すなわち水気さえあれば連中は寄ってくる。
水筒やエビアンを持っていれば地面に撒けばいい。
しかし昔の子供たちは虫捕りにゆくのに
いちいちそんな気の効いたものを持参することはなかった。
となれば、手っ取り早く水分を撒き散らす方法は
一つしかない。
アオスジアゲハを呼びたくば立ち小便。
特に呼ぶつもりはなくても、
排尿の最中にこの物怖じしない蝶は
勝手に寄ってきてしまったりするのだった。
ただしこの方法はご存知のように軽犯罪法に抵触する。
市街地や民家の多い辺りでは厳に慎みたいものである。
そんな風に手軽に呼べる素敵な蝶なのだが、
おかげで少年時代の私の頭には、
「オシッコの好きな蝶」という情報が
インプットされてしまっていた。
飲尿療法が市民権を得ていない時代の話である。
オシッコを飲むのは変態と相場が決まっていた。
子供にとって変態は未知の領域だ。
キレイだけどちょっと変な蝶。
そんなイメージが付き纏っていた。
アオスジアゲハには春型と夏型があり、
夏型の方がやや大きい。
そして夏型は下の写真のように、
ヤブガラシの地味な花を非常に好む。
このどこにでもはびこる
少々迷惑なツル植物の傍で待っていれば、
鮮やかなブルーの弧を描いた翅に
出会うことができるだろう。
幼虫の食草はクスノキやタブノキ。
元々はあまり北の方には生息していなかったが、
街路樹として西日本から運んで来られるクスノキと共に
その版図を拡大していったようだ。
自然破壊によって野生生物が減少する一方で、
街に下りてきて都市生活に馴化しているものもいる。
アオスジアゲハもその一つだ。
個人的な感想を言えば、
生息数自体も増えているように思う。
だからもうオシッコをしなくても彼等に会える。 |