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アリジゴク       ウスバカゲロウの幼虫
分布:北海道〜九州


砂漠の出てくる冒険ものには欠かせない悪役である。
ムーミン物語にすら出てくるくらいだ。
最後は飛行おにの帽子の魔法で
はりねずみに変えられてしまうのだが。

実際のアリジゴクはむろん、
はりねずみよりも全然怖くない生物である。
もっともそれは彼等の作るトラップが
せいぜい数センチ内外だからであり、
仮に数メートル級のすりばちを掘る

化け物があらわれたとすれば、
これは地上の生物にとって相当な脅威になろう。

アリジゴクは砂の上で円を描きながら移動し、
器用にこの落とし穴を作る。


中学生の頃、観察のために
数匹のアリジゴクを飼ってみたことがある。
ウスバカゲロウの幼虫であるアリジゴクには羽がない。
つまり飛ばないわけで、

従って飼育容器にフタは不要だ。
壁を乗り越えて脱走する心配もない。

私は30センチ四方のクッキーの空き缶に
5センチほどの厚さに細かい砂を敷き、
数匹のアリジゴク君を放してやった。
連中はシャイなので明るい場所は好まない。
机の下に安置し、
朝には素敵なトラップが出来ていることを信じて
布団に入ったものである。

さて。

貴方はアリジゴクの巣に
アリを入れてみたことがあるだろうか。
必死で斜面を這いあがろうとするアリに対し、
すりばちの底に潜む主は決して座視している訳ではない。
下の写真を見て頂ければわかるように、
アリジゴクの頭部は四角くて平たい。
彼等はこの頭に手近な砂粒を乗せ、
石つぶてよろしく犠牲者めがけて飛ばすのだ。
時ならぬ攻撃を受けたアリは

安定を失ってずるずると穴の底に滑り落ちる。
ついには待ち構える死のあぎとに捉えられ、
体液を吸われてしまうのだった。

アリジゴクはこの砂とばしの術を、
その巣作りの際にも使用する。

翌朝、クッキー缶には見事な

大小5、6個のすりばちが出来上がっていた。
そして机の下の絨毯は砂まみれだった。

やはりフタは必要だったのである。

彼等の巣は神社や寺の縁の下など、

柔らかい砂地によく見つかる。
すりばちごと手で掬って平らなところでならせば、
家を壊されて不満げな面持ちのあるじを

見付けることができるだろう。
指で突付くとむむむと後退する。
まだ小さいうちは前に進むこともあるが、
大きくなると後ろにしか進めなくなるのだった。

アリジゴクは砂の中でさなぎになり、
立派な羽を持つウスバカゲロウに変身する。

よく「薄馬鹿下郎」と揶揄される名前だが、
もちろん本来の意味は薄い羽のカゲロウである。

もっとも、あの口がないために何も食べることなく、
ただ繁殖のための結婚飛行のみでその生命を終える
カゲロウとはまったく別の昆虫だ。
ウスバカゲロウはなりこそ優雅だが、
アリジゴク同様に猛々しい肉食昆虫である。

薄暮に羽をはためかせて飛翔する
トンボのような虫を見かけたら、
それはアリジゴクの成長した姿なのだ。

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8月 東京都東村山市

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