世間には蝶屋と呼ばれる人々がいる。
つまり蝶専門の昆虫採集家だ。
そして彼らが最も熱中する対象こそ、
この一寸に満たないシジミチョウの仲間なのである。
シジミチョウは熱帯から寒帯に至る世界各地に分布する。
形態や色彩は変化に富み、
そのバラエティ豊かな美しさはしばしば宝石箱に喩えられる。
殊にミドリシジミ亜科に属する一群の蝶たちは、
ラテン語で西風の妖精を意味する
ゼフィルスの名で総称され、
世界中に熱狂的なマニアを持っている。
虫好きで有名だった手塚治虫氏も、
「ゼフィルス」という美しい短編を遺している。
しかし蝶屋さんたちが
本種ベニシジミに目を向けることはまずない。
あまりにもどこにでもいる普通種だからである。
生態系保全のための報告なんかにも、
「特に本種に絞った保全の必要はない」と
明記されているくらいだ。
実際、分布域もだだっ広い上に
年に5、6回にわたって発生するため、
ほぼ3月〜11月の間は成虫を見ることができる。
真冬以外ならOK。
そんな次第で稀少価値は皆無だが、
逆に言えばほぼ一年中、いつでもどこでも
我々はこの可憐な蝶に出会うことができるのだ。
むしろそのことを幸せだと思いたい。
幼虫の食草はスイバやギシギシの仲間である。
いわゆる雑草を餌にしている点も本種の強みといえよう。
成虫はさまざまな花にとまって吸蜜する。
私的には、
やはり雑草でありながらどこか楚々とした風情の
ヒメジョオンの白い花束が、
この元気なはねっ返りの町娘には
似つかわしいような気がしている。 |