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♂ 8月 東京都東村山市

エゴヒゲナガゾウムシ    Exechesops leucopis
分布:本州・九州


エゴノキという樹木がある。
春先に下向きの白い花をたくさん咲かせ、
夏から秋にかけては1センチ大の実をたわわにつける。
未熟な果実は有毒物質のサポニンを含み、
古くは魚を獲るための「毒流し」に使われた。
その姿には独特の風情があり、
公園など庭木としてもよく植えられている。

夏の雑木林で空を見上げると、
鈴なりの実が視界に入ることは珍しくない。
ひとつひとつの実は3センチほどの柄でぶら下がり、
正しく鈴のおもむきがある。

しかし、よく目を凝らして見ると
それぞれの実に乗っかっているものがある。

いや、この場合果実は下向きに付いているので、
しがみついていると言った方が正しい。

見ると5ミリにも満たない小さい虫だ。
実をもいで手に取ってみても、
やはり頑として離れる気配はない。

それにしてもこの面構えはどうだろう。
右下の写真をご覧頂きたい。
平べったい馬面の上方に、
おそろしく離れた目がついている。
藤田まこと顔負けである。
虫と人間を比べるなってば。

この妙ちくりんな顔の虫は、
エゴノキの実に卵を産みつけようとしている
エゴヒゲナガゾウムシの母親なのである。

顔つきに関していえばメスはまだましな方で、
オスと来たらもう目玉が輪郭からはみ出している。
上の2枚の写真は葉の上を散歩しているオスの姿だ。
顔の両側に見える突起が、問題の眼球である。

本種はその異相ゆえに、
ウシヅラヒゲナガゾウムシの別名を持っている。
馬面を通り越して牛面だ。
図鑑によって採用されている和名がまちまちなため、
当初はてっきりエゴヒゲナガとウシヅラヒゲナガと
2種類の虫がいるのだと思っていた。
上の写真の虫がウシヅラで、
下の方がエゴだと考えたのである。

途中でふと気づいて学名を確認したら、
両者ともに
Exechesops leucopis だったため、
同じ昆虫の雌雄であることが判った次第。

メスはこのようにエゴノキの果実に産卵し、
子供は実の中で育ち、そのまま冬を越す。
さなぎになるのは翌年の6月頃らしい。

ものの本によれば、
幼虫はチシャノムシと呼ばれ釣り餌に使われるとある。
チシャはレタスの別名であるが、
この場合はエゴノキの別名である
チシャノキから来ているのだろう。

ヒゲナガゾウムシ科は本種のように
平たい鼻面を持つものが多く、
ゾウムシ科とは別に分類されている。
文献によれば世界各地におよそ二千数百種が知られ、
本邦には90種ほどが生息しているとされる。

どこにでもいるのに普段見過ごしている
へんてこな生き物。

こういう連中に出会えるのも、
フィールドの大きな愉しみのひとつである。
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♂ 8月 東京都東村山市
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♀ 7月 東京都練馬区
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♀ 7月 東京都練馬区

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