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エンマコオロギ       Teleogryllus emma
分布:日本全土

閻魔大王の名を冠した本邦最大のコオロギである。
種小名にもちゃんとemmaと明記してあるぞ。

古典好きの方はご存知だろうが、
コオロギはその昔はキリギリスだったというのが定説だ。
和名の話である。
平安時代くらいまでは現在のコオロギはきりぎりすと呼ばれ、
また、当時のこおろぎはキリギリスをさす語であったという。
この説に従えば、万葉集等に出てくるこれらの単語は、
それぞれ逆の虫を思い浮かべつつ読まねばならない。

しかし何しろ千年以上昔の話だ。
八百比丘尼すら寿命が尽きているではないか。
当時を知っている人間が生き延びている筈もなく、
定説とはいえ完全に証明された訳ではない。
学界でも今なお異論があることを記しておきたい。

だいたい定説と呼ばれるものは、
多少なりともうさんくさいものである。

エンマコオロギの鳴き声は非常に特徴的だ。
他の連中がジーだのチンチロリンだの
スイッチョンだのと喚き散らす中、
ひときわ澄んだ音で
「コロコロコロコロ…」という旋律を朗々と響かせる。
個人的には鈴虫の次に美しい声だと思っている。

ところで彼等の歌声は喉から出ている訳ではない。
周知の通り、
翅の発音器官をこすり合わせて奏でる音楽だ。
これを称して「虫の声」とするのは妙な気もするが、
ここはカタいことは言わず声としておく。

そんな美しい声を、家でも聞きたいと思った。
小学生の頃である。

当時私の家では鈴虫を飼っていた。
ちゃんと毎年卵から育てていたのである。
秋になれば心地よく涼やかな鈴の音を聞くことが出来た。

鈴虫もコオロギも同じバッタ目。
これを家で飼わない手はない。
そう思った私は早速数頭のエンマコオロギを捕獲し、
家に連れ帰った。
土や草を整えた30センチ水槽に放し、
ミシンの下に安置したものである。

ところで最初に述べたように、
エンマコオロギは本邦最大種である。
体長は4センチ近くに及び、鈴虫の倍ほどある。

でかい人の出す声もまた総じてでかいものだ。

フィールドでは耳に楽しいコオロギの声は、
3Kの公務員宿舎内においては
大音声となって家を揺るがせたのであった。
また夜中に鳴くんだ、コオロギって奴らは。

かくてエンマ様たちは即刻放免となった。

写真は切り株の脇に仲良く潜んでいたつがいである。
ちょっと判りにくいが、手前の方がオスだ。
前翅に発音器官があるため、
脈が大きく渦を巻く模様になっている。
メスは鳴かないので、これが真っ直ぐなのだ。
寄りながら一枚づつ撮っていったら、
最後は例によってうるさそうに揃って隠れてしまった。
おそらく寒さを凌いでいたのだろう。

そしてもうすぐ長い冬が来る。

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10月 東京都文京区

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