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ハンミョウ       Cicindela japonica
分布:本州〜屋久島


斑猫と書く。
ぶち猫だ。
図鑑には時折「獲物を捕えるさまを
猫の敏捷さになぞらえた」という記述がみられるが、
どうもこれはウソらしい。
古代中国で「斑点があり、矛のように刺す虫」の意味の
ハンミョウ(ミョウは常用漢字になし)という漢字名が、
読みが同じこの字に転化したのが真相のようだ。

ところがこの美しい虫は決して
「矛のように刺す」ことはない。
ややこしいのだが、ハンミョウとは本来
この虫を指す言葉ではなかった。

東洋では古くから恐れられ、
澁澤龍彦の著書等でおなじみの「斑猫の毒」は、
本種とは属の異なるツチハンミョウの仲間の持つ
毒成分カンタリジンを指して言ったものだ。
つまり古代におけるハンミョウは、

現在のツチハンミョウの名前だったのである。

これがどういう過程を経て

本種の和名になってしまったかは、
荒俣宏「世界大博物図鑑1・蟲類」(平凡社)に詳しいので
興味のある方は参照して頂きたい。

小さい頃から、私はこの
宝石のような鎧を纏った殺し屋に憧れていた。

生物界ではしばしば危険な奴ほど
派手な格好をしている。
ハンミョウはその長い足で乾いた地表を走り回り、
他の昆虫や小動物を襲って捕食する狩人だ。
英名のTiger Beetleは、その性質をよく表した呼称である。

先年、広島県の宮島を訪れた際、
山道で私の歩く数メートル先をつうと飛ぶものがあった。
さてはと思って近寄って見ると、
幼い日に胸躍らせた虹色の虫が
乾いた地面に影を落としていた。

陽射しを浴びてきらめく鞘翅に見とれていると、
思い出したようにふっと飛び立ち、
また数メートル先の地面に降り立つ。
ハンミョウ独特の行動だ。
山道の案内役として
ミチオシエの異名で呼ばれるゆえんである。

嬉しくなってしばらく追いかけていたら、
案内役は職務を放棄して近くの低木に止まってしまった。
上の写真はその際の一枚である。
物好きな人間にはつきあいきれんわ、という疲労感が
漂っているように思えなくもない。

アリジゴク同様、ハンミョウの幼虫も捕食者だ。
固い地面に四角い穴をあけて潜んでいる。
獲物の気配を察すると、身体を弓なりに反らせ飛び出し
その大アゴでがっちりと捕まえてしまう。
幼虫の背中には上向きのカギがついており、
たまたま大力の獲物が逆に引きずり出そうとしても、
穴の壁にカギが引っかかって出てこない仕組になっている。

昔の子供はこの幼虫の巣穴に細い葉を差し込み、
うまくカギを外して釣り上げて遊んだという。
私も何度か試みたが、
ついぞ成功したためしはないのだった。

まあ私も意外と昔の子供ではなかったってことで。

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5月 広島県宮島

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