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9月 あきるの市

ヒメアカネ  Sympetrum paruvulum
分布:北海道〜九州

可憐という言葉のふさわしい、
日本でもっとも小さな赤トンボである。

体長は3センチちょい。
写真では判りにくいが、
実物は本当に小さく可愛らしい。

本邦最小のトンボとしては、
これよりもさらに一回り以上小さい
ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea がいる。
やはり成熟した雄が真っ赤になるトンボだが、
学名でわかるように属が異なる。
いわゆる「赤トンボ」はアカネ属のトンボを差すため、
ハッチョウトンボは
仲間に入れてもらえないのだった。

従って以前紹介したショウジョウトンボ
Crocothemis servilia mariannae も、
あんなに赤いのに
正確には「赤トンボ」ではないのである。

分類学とはフシギなものだ。

和名としては基本的に
「〜アカネ」とあるものが赤トンボだと思えばよいのだが、
同じSympetrum属でも
ノシメトンボなどはアカネの名がつかない赤トンボである。
やれやれ。

トンボの項になるといつも分類と同定の話になってしまう。
味気ないことおびただしいが、
避けて通る訳にはゆかない問題でもある。


本種ヒメアカネの同定のポイントは胸の模様だ。
正面図を見ると頭のすぐ後ろの部分に
3本の太い黒い線がタテに走っている。
この上の方に細い横線が入るのがヒメアカネだと思えば、
ほぼ間違いはない。
よく似たマイコアカネやマユタテアカネには
この横線がないのだ。
もっとポピュラーなナツアカネやアキアカネでは
胸元まで赤味を帯び、
こんな鮮やかなレモンイエローにはならない。


そう、私がヒメアカネを好むひとつの理由は、
この黄色と紅との鮮やかなコントラストなのだ。
雌は赤くならないものの
こちらは腹部が淡いオレンジ色に染まる。
胸元はやはりレモンイエローである。
どこか質素な美しさがあり、
これまた捨てがたい。

もうひとつの理由はたぶん名前である。
姫茜とは何とも愛らしく、
この小さく華奢なトンボに似つかわしい。
マイコアカネと並ぶリリカルなネーミングである。
本当はカマキリ同様、
他の虫を捕食する肉食昆虫なのに。

これがゴリラムシとかの名前だったら、
だいぶ印象が悪いに違いない。
誰もそんな命名はしないとは思うが。


多くのトンボの翅は透明だが、
光線の具合によって微妙な色を見せることがある。
右下の雌の翅も
きらきらと赤味を帯びた光沢を放っている。
身体が赤いわけではないので、
照り返しとも思えない。
どこから来る色彩なのだろうか。

晩夏の陽射しに照り映えるその翅は、
銀翼の名にふさわしく
まばゆく輝いているのだった。
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雌 9月 あきるの市
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 9月 あきるの市

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