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ヒメクロオトシブミ       Apoderus erythrogaster分布:本州〜九州

やわらかな新緑の葉の上に小さな虫が乗っかっている。
サイズは実に4,5ミリ程度。
固くてツヤのある鞘翅は甲虫類の証である。
ああ、葉を食べるハムシのたぐいか。
そう思ってやり過ごしかけた。

しかし、ふと足を止めてよく見ると
ちょっと不思議なプロポーションをしている。
やけに首が長いのだ。
昆虫の身体は頭・胸・胴に分かれているので、
アタマが長いと言ってもよろしい。

この奇妙に長い首こそ、
興味深い産卵行動で知られる
オトシブミの仲間の特徴なのである。

オトシブミは落とし文。
彼女たちが子供のために作る
木の葉を巻いたゆりかごを、
古人は森の落とした手紙になぞらえた。

一口に葉を巻くと言っても、
我々がくるくると丸めるのとは勝手が違う。
葉っぱに対するオトシブミの大きさを見て頂きたい。
人間でいえば、
旅館の大宴会場いっぱいに広げられた1枚の絨毯を
一人で巻くようなものだ。
しかもこの場合絨毯は空中にぶら下がっている。
相当なアクロバットである。
おまけに元気な葉っぱは弾性があり、固い。
オトシブミの母親の苦労たるや
推して知るべしというものだ。

彼女はゆりかご用の葉っぱを仔細に調べると、
口を使ってまず左右から切れ込みを入れて行く。
最後に中央の太い葉脈が残るが、
ここは切り落とさず、代りに軽くひと噛みして傷をつけておく。
ご存知のように水や養分は葉脈を通っているので、
ここを傷つけられた葉っぱは元気がなくなり、
ぐにゃりとしなだれる。

柔らかくなった葉をオトシブミは二つ折りにし、
垂れ下がった先端から
6本の足を器用に使ってくるくると巻いてゆくのである。
産卵は巻き上げる途中で行われる。
最後まで巻いたら、
端を内側に折り込んでフタをして出来あがり。

右の写真を見て頂きたい。
彼女のこしらえた見事な森の落とし文である。

手紙の中には黄色い小さな卵がひとつづつ入っている。
やがて孵った子供たちは、
お母さんがせっせと巻いてくれたゆりかごを食べて育ち、
来年の春には成虫になるだろう。

雑木林の中のあちこちに
彼女たちの内緒の手紙はぶら下がっていた。

夏は近い。

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4月 東京都東村山市

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