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空気抵抗の少ない流線型のボディと、 シャープな三角形の翼は 抜群の飛行性能を保証する。 そのスピードは実に時速56kmに達し、 これはヤンマの48km/hを凌いで堂々の昆虫界最速だ。 空中静止やバックも自由自在。 まさしく空の王者、トップガンである。 本邦ではスズメ扱いのこの昆虫は、 英語圏でHawk Mothの名を頂戴している。 高い飛行能力に相応しい、 なかなかカッコいい称号と言えよう。 もっとも、実際に花の間を飛びまわり吸蜜する様子は スズメともタカとも違う。 右の写真にあるように、 彼らは花に止まることなく、 至近距離でホバリングしたまま 長いストローを差し込んで蜜を吸う。 数秒の後にはさっと離れ、 羽音を立てて別な花へと飛んで行く。 その姿はあの飛ぶ宝石、ハチドリそっくりなのだ。 こんな相手だけに、デジカメでの撮影は 決して容易とはいえない。 これはという花に狙いをつけ、 ピントを固定してひたすら待つことになる。 どうにか数枚はフレームに収めたが、 1/500程度のシャッタースピードでは やはり翅を写し止めるのは無理だった。 それでも本体は止まって見えるのだから、 いかにきっちり空中で静止しているかが 判ろうというものである。 ちなみにお花畑には他のお客さんも来ている。 カメラを構えていたら 再度耳元で「ぶうん」と音がした。 よし来たか、と横目で見たらくまんばちだった。 慌てて逃げた。 近縁のオオスカシバCephonodes hylas は 翅が透き通っており、さらにハチに酷似している。 幼き日の漫画家・重野なおき氏は、 これらの種がハチではなくガであることを 正しく主張し続けたという。 「『ウソつけバカヤロー』って言われるだけで 全然信じてもらえませんでした」 悲しげに眉毛を下げて語る姿に、 私は「それでも地球は回る」と呟いた ガリレオの面影を見たのだった。 |
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![]() オオスカシバ 8月 文京区 |
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![]() 10月 東京都あきるの市 |