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カナブン       Rhomborrhina japonica
分布:本州〜屋久島


何となくいつも仮名垣魯文のことを連想してしまうのだが。

虫捕り少年にとっては余りになじみの顔である。
なじみ過ぎてちっともありがたみがなかった。
現在もさほど珍しい昆虫ではない。

写真は石神井公園の道の横に生えていたクヌギの木である。
昼日中で人通りも多い場所だが、
一向に頓着する風はない。
樹液の涌き出るくぼみに
例の平たい頭を突っ込むのに夢中なのだ。
酒場の客は最初3人しかいなかったが、
ほんの3分ほどの撮影の間に5人に増えていた。
盛況である。

クヌギの酒場の客はむろんカナブンだけではない。
以前に紹介したヒカゲチョウの仲間をはじめ、
ヤセバエやスズメバチにも人気だ。
夜が更ければカブトムシやクワガタといった
お偉いさん方も現れる。

むろんこれらの客筋に民主主義的な取り決めがある筈もなく、
彼等の間には厳然としたヒエラルキーが存在している。
とりあえずカブトムシ氏やミヤマクワガタ殿、
スズメバチ女史あたりが大将格で、
カナブン君たちはいわば雑兵のたぐいだ。
まともに優先権を主張しても
即座に却下される身分に甘んじている。

しかしそこは海千山千の雑兵ども。
大将連中のスキを突いてドカドカと頭を突っ込んでくる。
そのなりふり構わぬさまは、
いっそお偉いさん方よりもエネルギッシュで
なかなか愉快な見物である。

クヌギの幹の途中にごそごそと群れうごめく金物色の背中。
真夏の雑木林に見なれた光景だ。

一口に金物色と言っても、その色味は
赤銅色から緑色、紺色っぽいものまでさまざまだ。

写真にはやや草色を帯びたものが写っている。
山の方にゆくともっと塗ったような深い緑色の虫を
見かけることがあるが、
それはたぶんアオカナブン
Rhomborrhina unicolor で、
別の種類である。

カナブンの仲間はなぜかこの前翅を閉じたまま、
薄いすきとおった後翅だけを出して飛ぶ。
ぶーんと景気のいい音を立て、
ほぼ一直線に突っ込んでゆく。
そしてしばしば勢いあまって
そのへんのものに激突するのだった。

子供の頃、走行中の車のフロントガラスに
高速でアタックをかけるカナブンを見た。
彼は当然のようにすこーんと空中高く跳ね飛ばされ、
ややあって地面に墜落した。
びっくりして見に行ってみると、
ひっくり返ってじたばたともがいている。
仕方がないので助け起こすと、
果敢にも再び空中に勢い良く舞い上がった。

彼がまたしても
別な車に衝突してしまったのは言うまでもない。

当たり屋かよ。

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7月 東京都練馬区

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