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川辺のトンボだからカワトンボ。 |
子供の生育環境を第一に考えるのが 昆虫の親御さんだ。 だからカワトンボは流れる水辺を 終の棲家にしているのである。 まっすぐな棒のような胴体を見ても判るように、 カワトンボはハグロトンボに近い仲間だ。 姿かたちはイトトンボにも似ているが、 カワトンボ科の方がずっと図体がでかい。 胸元に金色のエンブレムをきらめかせ、 幅広の翅をゆったりとはためかせて舞う姿は なかなかに優雅である。 かくも魅力的なカワトンボだが、 その同定は実はけっこう難しい。 上の写真にあるような、 白っぽい胴体に明るいブラウンの翅を持つものは この仲間の典型的な雄である。 ところが困ったことにカワトンボ全員が こういう配色な訳ではない。 雄と雌では色味が違う上、 濃い茶色のものや橙色に薄橙色、 果ては無色の翅を持つタイプまで確認されている。 また地域変異もみられ、 本州中部以西のものを基亜種 ニシカワトンボMnais pruisona pruisona とし、 静岡県以東に棲むものは別亜種 ヒガシカワトンボM. pruisona costalis として区別される。 加えて西日本には良く似た オオカワトンボM. nawai がみられるときたもんだ。 西川だの大川だのややこしいことこの上ない。 オオカワトンボもかつてはニシカワトンボの亜種とされ、 学名もM. pruisona nawai と記載されていた。 最近の資料では単にM. nawai となっているので、 独立種に昇格したものとみえる。 ちなみにこの種小名nawai は、 近代昆虫学の祖でありギフチョウの発見者でもある "昆虫翁"名和靖氏に因む。 もっとも、このような分類に頭を悩ますのは 専門家の仕事だ。 私なんぞは 川辺ではばたく茶色い翅のトンボを見れば 「あ、カワトンボ」と思うだけでおしまいである。 胴体が細いせいか渓流を好むせいか、 カワトンボには他のトンボに比べて どこか涼しげなイメージがつきまとう。 昨年も同じ頃に同じ場所で彼らに会った。 やっぱり梅雨に入るちょっと前のことだった。 やがて来る暑い季節を前にした、 水辺の一幅の涼景である。 |
![]() はばたき ![]() 無色型と思われる個体 5月 あきるの市 |
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