kichou1022_2.jpg (15261 バイト)
(秋型)10月 東京都あきるの市

キチョウ    Eurema hecabe
分布:本州・四国・九州


左はアザミの花に吸蜜中のキチョウである。

野山にイエローの鱗翅をはためかせ
ひらひらと舞うさまは、
息を呑む美しさとまではゆかないが
可憐であり微笑ましい。

大きさや飛び方はモンシロチョウに準ずる。
キチョウの方が市街地より山地や林縁を好むものの、
目に親しい風景としても両者はいい勝負だ。

にもかかわらず、
モンシロチョウの愛され方と引き比べ、
本種が注目される機会は決して多くない。

名前にしろ黄色い蝶だから黄蝶と
実にそっけない。

ちなみに英語圏ではキチョウ属の蝶を
Grass Yellowと呼ぶ。
昆虫というより色の名前のようで、
こちらはいささか響きがよろしい。
本種はThe Common Grass Yellow
"ナミキチョウ"である。

思うに日本人にはどうもこの蝶の色合いが、
いまいち覚えがめでたくなかったのではなかろうか。
そもそもが警戒色だし、
子供の頃はあぶない人を運ぶ救急車の色でもあった。
もっともこれは一種の都市伝説らしく、
黄色い緊急車両を目撃したことは今に至るまでない。
しかも地方によっては緑色説もあったと聞く。

さらに言えば日本の写真の発色や印刷技術は、
伝統的に黄色系に少々弱い。
イエローを得意とするフィルムはアメリカのコダックで、
それゆえにパッケージが黄色なのである。
一方、本邦産の富士フイルムは
グリーンに自信があったので箱は緑色をしている。

…というのが、カメラ好きの間で
まことしやかに囁かれている定説ではある。
箱色の真偽については不明だが、
コダックが黄色系の発色に強いのは本当だぞ。

今まで紹介したベニシジミやキタテハ同様、
キチョウにも夏型と秋型がある。
全般に夏型は開いた翅をふちどる黒い模様が濃く、
裏側のごま塩的斑紋が薄い。
秋型はこの逆になる。

とはいえこれらの模様の出方は個体差があり、
困ったことに夏秋の中間型の存在も知られている。
9月くらいに飛んでる連中の判別は難しいところだ。

幼虫の食草はマメ科の植物である。
ネムノキやメドハギを挙げている文献が多いが、
シロツメクサやヤハズソウなんかも好きらしい。
クローバーの植えられた広場でも、
その可憐なはばたきを見ることができる。

ただし吸蜜に際してはあまり相手を選ばない。
さまざまな花に訪れるほか、
夏場には小さな水たまりに群れている光景も
珍しくない。

キチョウは成虫の姿で冬を越す。
次第に寒さがつのるこれからの時期、
翅をぼろぼろにしながらも
やがて来る春をじっと待ちわびている。
kichou1022_1.jpg (13753 バイト)
10月 東京都あきるの市
kichou0807_2.jpg (12318 バイト)
 (夏型)8月 東京都東村山市

→INDEX    →TOP