人間に害をなす昆虫を害虫、
利益をもたらす昆虫を益虫と総称することに対し、
エゴイスティックだという批判もある。
しかし、植物を栽培することで
生計を立てている人々にしてみれば、
農作物に被害を与える相手は敵だ。
大事な作物と、
それを食害する昆虫とを同等に考え扱うなど、
おめでたい暇人の発想というものだ。
益虫害虫という考え方は、
農耕生活の上に立脚した概念なのである。
これを人間中心のエゴだといって否定するのは、
自然を相手に生活を考える必要のない者の
言葉遊びに過ぎない。
もっとも、だからっつって全人類が昆虫に対して
「これは害虫、あれは益虫」という
分類法を適用する必要もない訳で。
我々は我々なりの見方で見ればよい。
例えば単に綺麗汚いや可愛い怖いであってもよいのだ。
好悪いずれにせよ何かしらの感情を抱くことは、
その対象をより身近にするものだから。
視点を人間の側から植物の側に移してみよう。
自分では動けない植物にとって、
葉や茎を食べたり傷つける昆虫はありがたくない。
一方、生育し繁殖する上で手助けをしてくれる相手は、
やはり好ましく感じるだろう。
ハナムグリの全身には細かい毛が密生しており、
彼等が花にもぐりこむと、
毛足に花粉がくっつくしくみになっている。
身体中に花粉を纏ったハナムグリは、
また別の花にもぐりこむ。
このことで花粉がめしべに付着し、
受粉が行われるってえ寸法なのだ。
植物の受粉は動物でいう受精行為である。
成功してはじめて実がなり種子ができる。
花々にしてみればハナムグリのおかげで繁殖できる訳で、
必ずや深い感謝の念を抱いているに違いない。
このように植物の受粉のなかだちをする昆虫は、
ハナムグリ以外にもミツバチや蝶など
多くの種類が存在している。
また、植物の中にはこれらの昆虫たちの助けがないと
受粉できないものもある。
このような仲間を虫媒花とよぶ。
むろんハナムグリにしてみれば、
別に花のためを思って
身体を花粉まみれにしている訳もない。
大好きな蜜の匂いに誘われ、
夢中で首をつっこんでいるだけである。
そして今日も彼らはせっせと花粉を運んでいる。 |