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コカマキリ       Statilia maculata
分布:本州以西

敵に後を見せるカマキリに遭ったことがない。

人やら猫やら
自分の数十倍はあろうかという相手に対しても、
このスリムな捕食昆虫はひるむということを知らない。
すかさず例の拳法の構えをとり、
興が乗れば薄い翅をぱさりと広げて威嚇する。

むろん勝ち目など1%もないのだが、
もとよりそのような計算は彼らの頭にはない。
ただ本能のままに闘うだけである。
蟷螂の斧とは、
彼らの相手を選ばない闘志を嘲った言葉に他ならない。

それは確かに蛮勇かもしれない。
が、カマキリは怯懦の心もまた知らないのである。

我々が敵わぬ相手に対して振り上げられた
彼らの斧を笑えるのは、
人間には敵を恐れる弱さがあるという証左でもあるのだった。

そんなカマキリのファイティングポーズは、
古くから世界各地で祈りの姿としても認知されてきた。

カマキリ科の学名マンティダエMantidaeは
「占い師、予言者」を意味するギリシア語に由来する。
このため、中世のヨーロッパやイスラム教国では
聖虫として信仰の対象にもなった。
日本でも各地に
「イノリムシ」「オガミムシ」の通称が残っている。

神に祈りを捧げる殺し屋。

ファーブルも、その詩的な筆致で
このアイロニカルな存在について言及している。

カマキリの闘争本能は、
相手が眷属であっても容赦はしない。
なかんずくメスが交尾の際に
花婿をむしゃむしゃ食べてしまうのは有名である。
もっとも観察者たちによれば、
この結婚の際の聖餐は必要不可欠な儀式ではないらしい。
食べられることなく逃げおおせたオスの例も
数多く報告されている。

しかし不運にも花嫁に食糧と見なされてしまった場合、
オスの交尾活動はたいへん激しいものになる。
これは要するに頭からかじられてしまうからで、
脳みそがなくなって抑制が効かなくなるのだそうだ。
性の暴走である。色ボケのようなものか。

コカマキリは枯葉色の小さなカマキリである。
生垣に貼り付いていたのでカメラを向けると、
案の定ガンを飛ばされた。
せっかくなので相手をしてやろうと思って指で突っついたら、
足を踏み外してあえなく茂みの間に落っこちてしまった。

不戦勝。

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11月 東京都千代田区

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