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クマバチ       Xylocopa appendiculata circumvolans
分布:北海道〜九州

リムスキー・コルサコフに
「熊蜂の飛行」という有名な曲がある。

と書き出そうと思っていたら、
小学館の図鑑で三木卓がやはりこの曲に触れていた。
誰しも思うところは同じらしい。ち。

黒くて大きくてずんぐりでもこもこしてるから熊ん蜂。
実に的を射た命名である。
英語圏ではCarpnter bee、
大工蜂と呼ばれるのはなぜだろう。
アメリカの大工さんはブンブン言ってるのだろうか。

実際、クマバチの羽音は異常に大きい。
三木卓の言葉を借りればモーレツである。

春から夏、花写真を撮っていると
ふいに耳元を「ブィーン」と羽の唸る音がかすめてゆく。
びっくりして首を竦めたり逃げ出してしまうことも珍しくない。

連中は小さい花が房状に集まっているのが大好きだ。
写真のコゴメウツギなんかも愛されがちだが、
やはりクマバチといえば藤棚の番人である。

小学校のプールの横には大きな藤棚があり、
毎年この季節になると数匹のクマバチが
わんわん唸っていた。
いつもおっかなびっくり避けていたものである。

もっともクマバチはなりと羽音こそ恐ろしげだが、
常に単独行な上に積極的に人を襲うことはない。
ただしちゃんとお尻には剣があるので、
手乗りにして可愛がるのはあまりお勧めしない。

ハチの仲間は「刺す虫」というイメージが強いが、
刺されて痛いのはスズメバチやミツバチを始めとした
数種類くらいらしい。
殊に他の虫を狩るカリュウドバチの仲間は、
ベッコウバチを除いて刺されても痛くないのだそうだ。
とはいえ私自身が刺されてみた訳ではないので、
保証はしない。

ところでクマバチの英名とされる語に、
もうひとつバンブルビーbumblebeeというのがある。
熱帯魚の好きな方ならよくご存知の単語だろう。
黒と黄色の縞模様のある魚に対して、
付けられがちな名前なのである。

そのものずばりの名がついた
バンブルビー・フィッシュは有名だ。
観賞魚図鑑ではたいがい
「バンブルビーとはくまんばちのことで」と説明されている。

しかしご覧のようにクマバチに縞模様はない。
外国産の種でも同様だ。
踏切模様にクマバチの名前を用いるのは妙である。
不思議に思って辞書を引いてみた。

bumble-bee【名】(昆)マルハナバチ。

謎は解けた。
マルハナバチならなるほど黒とオレンジの模様がある。
おそらくマルハナバチを知らない人が
誰でも知っているクマバチと混同してしまい、
以後それが定着してしまったものと見える。

ちなみにbumbleは、
ハチなどがぶんぶんいうさまを指す疑音語である。
絵本などで「ぶんぶんばち」とあてられているのは
この語なのだろう。
適当にクマバチなどと訳してしまうより、
よっぽど本来の語感を大事にしたよい訳語だと思う。

しかし生物名の誤訳を、
堂々と説明している図鑑ってのはどうなのか。

なお、EXCITEでbumblebeeを翻訳してみたところ、
「マルハチバチ」なる未知の生物名が出て来たことを
付記しておく。
マルハチて。布団屋か。


そんな混同には関係なく、
クマバチはなかなか可愛らしい蜂である。
写真は10センチくらいの至近距離で撮ったものだが、
花の蜜に夢中で一向に意に介する風はなかった。

意に介されると、やっぱりちょっと怖いのだけど。

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5月 東京都千代田区

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