kurosujiginyanma0706_2.jpg (18035 バイト)
7月 東京都調布市

クロスジギンヤンマ       Anax nigrofasciatus nigrofasciatus
分布:本州〜種子島


ヤンマ類の撮影は難しい。
同じトンボの仲間でも、シオカラやアカトンボは
すぐに目立つ場所に停まりたがる。
飛んでいるよりも休んでいる時間の方が長いまである。
驚かせさえしなければ、
ずいぶん近くまで寄っても呑気に動かない。
昆虫写真のモデルとしては非常な優等生といえる。

しかるにヤンマ連中ときたらどうだ。
スズメガと並んで昆虫界屈指の飛行能力を誇る彼らは、
片時も休むことなく飛び回っている。
食事も交尾も産卵も飛びながら行う。ながら族だ。
お母さんに叱られるぞ。

とある公園内の池のほとりを歩いていて、
旋廻する一匹の大きなトンボに出会った。

おなじみのギンヤンマに似ているのだが、
視界を横切る影がやけに青い。
一瞬、すわマルタンヤンマかと色めき立った。
マルタンヤンマは本邦で最も美しいと謳われるトンボである。
私もいまだ写真でしかお目にかかったことはない。
すらりと伸びた胴体はブルーと黒に彩られ、
青く光る大きな複眼はサファイア顔負けの光沢を放つ、
美麗種中の美麗種だ。
気になる方は図鑑を参照するか、
画像検索をしてみて頂きたい。

しかしそれにしては
目の前のトンボはギンヤンマに似すぎている。
似ているがしかし違う。
ギンヤンマは緑色と空色のトンボだが、
こちらはもっとずっと青味が深いのだ。

これはぜひとも写真におさめなくてはならぬ。
私は腹を決めて撮影に挑んだ。

ヤンマ類の行動にはひとつのパターンがある。
獰猛な肉食昆虫である彼らは、
自分の縄張りに非常にうるさいのだ。
確かにしじゅう飛び回ってはいるのだが、
そのコースは必ず決まっている。
ヤンマの飛翔は捕食兼縄張り巡回なのだ。
従ってどこかに飛び去ってしまうことはない。
張り込んでいればいつかは休息を取るはずだ。

幸い彼のテリトリーは目の前の小さな池に
限定されているらしい。
私は刑事よろしく橋の上に腰を下ろし、
手頃な場所で彼が止まるのを待ち続けた。

待つこと約20分間。
いたずら者のシオカラトンボに邪魔されつつも
どうにか写しとめたものが、ここに紹介した写真である。

胸の部分に注意して頂きたい。
アキアカネの項で述べた通り、
トンボの種類を見分ける決め手はここの模様だ。
本種の胸に走る黒い条線は、
ギンヤンマにはない。
腹部にも青い斑紋が点在し、
複眼は目の覚めるようなスカイブルー。

ようやく探し当てた彼の名前は、
クロスジギンヤンマであった。

名前と見てくれの通りギンヤンマに近縁の種だが、
発生時期や生息環境で住み分けているようだ。
ギンヤンマは盛夏の季節に
開けた明るい大きな池沼を飛ぶのに対し、
クロスジは晩春から初夏にかけて
木陰の多い比較的小規模な水域に暮らしているらしい。

撮影は7月初頭で、
ロケーションも上の記述に合致する。

まだまだ私の知らない美しい昆虫がいるのだな。
そう思ってちょっと嬉しくなった。

また来年の初夏に会いに来よう。

kurosujiginyanma0706_1.jpg (18329 バイト)

→INDEX    →TOP