mamekogane0706_2.jpg (19754 バイト)

マメコガネ       Popillia japonica
分布:九州以北


この2センチ足らずの甲虫には、
Japanese Beetleの英名がある。
直訳すれば「ニッポンコガネ」ってとこだろうか。

草原で普通に見られるこの虫が、
日本代表の名を頂いたのには
それなりの理由がある。

ヨウシュミツバチの項で帰化種について少し触れた。
はるばる海を渡って日本に定着したお客様である。
昆虫ではヨウシュミツバチの他、
アメリカシロヒトリやチチュウカイミバエなどが有名だ。

このうちミツバチは人為的に持ち込まれた「益虫」だが、
後の2種は本邦の樹木や農作物に被害を与える
迷惑なストレンジャーとしてその名を知られている。

マメコガネは基本的に
マメ科の植物全般を食草とする昆虫だ。
気がむけば果樹の葉や花も手当たり次第に食い散らかす。

これがある時、日本から輸出される穀物に紛れて
海外旅行に出てしまった。
丈夫な昆虫である彼らは、
遠くアメリカ合衆国にまで版図を広げてしまったのである。

海外での彼らの暴れっぷりは凄まじく、
たちまち農作物の生産に大打撃を与えた。
時に20世紀初頭。
恐慌や大戦で世界が不安に揺れていた時代である。
アメリカ人はこの異国からの招かれざる客を恐れ憎み、
Japanese Beetleと命名したのであった。

そのような世界的な大害虫であるにも拘らず、
日本でさほどに甚大な被害が出たという話は聞かない。

これは本邦にはもともと
本種専門に寄生する菌類が存在しているからだ。
逆に言えば、マメコガネはそれらの天敵に備えて
強力な繁殖力を身につけたのかもしれない。
天敵のいないホームステイ先のアメリカで
あっという間に大繁殖してしまったのも無理はない。

農作物に関わるトラブルは人類にとって死活問題である。
現在のアメリカでは、
やはり本種に寄生する細菌を用いて
発生数を抑える対策が取られていると聞く。

このように化学物質を用いず、
天然の生物を利用した害虫駆除法は生物農薬と呼ばれ、
無農薬栽培が提唱されて以来
広く行われている方法である。

しかし、アメリカでマメコガネ駆除に用いられている菌は
日本では使用できないことになっている。
こいつはマメコガネだけでなく
鱗翅目の幼虫にも寄生するため、
養蚕の行われている本邦では
カイコに被害を及ぼす危険があるからである。

天然の産物が人工のそれより安全だというのは、
幻想に過ぎない。
化学兵器と細菌兵器の危険度を論じるようなもので、
いずれにせよその辺をわきまえて用いない限り
いつか手痛いしっぺ返しをくらう破目になるように思う。


そんな人類のドタバタぶりを尻目に、
この薄茶色のチョッキを着た虫はすこぶる太平楽だ。
よく見れば胸の金属光沢も美しく、
なかなかこじゃれた風情である。
後ろ足があさっての方を向いているのは
痛めている訳ではなく、この虫の癖である。

写真ではアカツメクサの花に顔をつっこみ、
食事に余念がない。
クズの葉の上でせっせと交尾に耽る連中もいる。

そう、彼らは彼らなりの日々の営みに忙しいのだ。

mamekogane0706_1.jpg (7318 バイト)
mamekogane0706_3.jpg (15529 バイト)
7月 東京都調布市

→INDEX    →TOP