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2月 東京都小金井市

ナナホシテントウ   Coccinella septempunctata
分布:日本全土

もっとも人々に愛されている昆虫かもしれない。

ひとつには彼らが
「益虫」の代表選手だからに他なるまい。

人間はその生活形態を
狩猟から農耕へと移行した時点で、
作物を食べる虫たちを敵に回してしまった。
その筆頭がアブラムシである。

連中はよってたかって農作物の養分を吸い、
片っ端から弱らせ枯らしてしまう。
おまけに繁殖力も強い。
取っても取っても沸いてくる。
ああ困ったどうしよう。

そんな時、アブラムシを主食とする虫が颯爽と現れた。
神の使いと思われるのも無理はない。

実際、英米ではナナホシテントウやテントウムシを
ladybugあるいはladybirdと呼び、
縁起のよい昆虫としてありがたがられている。

とはいえ、同じく害虫を倒す正義の味方でも
カマキリやクモを愛でる人々はあまり多くない。
ナナホシテントウが人気を獲得している最大の理由は、
やはりルックスにあると考えるべきだろう。

人は細長いものや角張ったものより
丸いものを見て安心する傾向がある。

赤ん坊はまるまる太っている方が可愛らしいものだ。
つーか骨と皮ばかりの子供はむごすぎるってばよ。
丸くても無闇にデカかったり
ぶよぶよ感があると嬉しくないが、
テントウムシは小さくてころころと丸い。

加えてこのカラーリングを見よ。
鮮やかな赤の地色に映える黒の水玉模様。
宝石のような高級感にこそ欠けるものの、
その分非常に親しみやすい。
テントウムシを模したアクセサリーや
調度品が多く見られるのも頷けるというものだ。


むろん食性からいえば彼らは肉食昆虫であり、
性質も温和とはいいかねる。
アブラムシの立場からすれば、
我々が人食い鮫や熊と対峙するのと同様に
恐るべき捕食者に他ならない。

しかし人間は結局見てくれに弱い。
虫たちの世界での位置付けとは関係なく、
我々はその丸い背中に
のどかな印象すら抱いてしまうのだった。


ナナホシテントウは成虫で越冬する。
数年前の晩秋に訪れた
小金井公園の江戸東京たてもの館では、
日当たりのよい窓辺に
数十匹のテントウムシが固まって休んでいた。
越冬場所を探す一団の姿なのである。

年が明け陽が高くなってくれば、
お天道様の名を持つ虫たちは
いちはやく動き始める。


路傍の咲き始めたオオイヌノフグリの陰に
艶やかな赤い背中を見つけた。
摘み上げて手に乗せると、
しばらく足を縮めて転がっていたが、
やがて起き上がりのそのそと歩き出した。
寝起きなのか動きはまだ緩慢である。

彼が蹲っていた後には見慣れた黄色いシミが残った。
腹側の関節から染み出すこの液体は
独特の匂いを放ち、
外敵から身を守るために有効だとされている。

ナナホシテントウは開いた手の指先を
ゆっくりと上っていった。
その目線の先には、
暮れかけた二月の太陽が大きくゆらいでいる。

春は近い。
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2月 東京都文京区
nanahoshitentou0205_3.jpg (37615 バイト) 2月 東京都小金井市

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