ohhiratashidemushi0524.jpg (30082 バイト)
5月 東京都国立市

オオヒラタシデムシ       Eusilpha japonica
分布:日本全土・台湾

なんてことないフラットな黒い甲虫である。
オサムシの仲間同様、その辺の道を普通に歩き回っている。
大人しげな姿からはその職業は窺えない。
走るというほどではない急ぎ足で、
どこへ向かっているのだろうか。

シデムシは死出虫と書く。
あるいは埋葬虫と当てられることもある。
この経帷子を身に着けた武骨な昆虫の商売は、
葬儀屋なのである。

乾いた地表をせかせか歩き回っているのは、
死の気配を求めてさまよう姿に他ならない。

もっとも彼らにハイエナやハゲタカのような
屍肉を食らうグールの凶々しさはない。
息絶えた生物に出会うと、
シデムシたちは静かにそれを地中に埋めてしまう。
まさしく葬儀屋、埋葬者なのである。

埋められたむくろには卵が産み付けられ、
やがては新しい生命となって生まれ変わるだろう。


彼らの地味な仕事ぶりの重要性に目をとめたのは、
かのファーブルであった。
「昆虫記」には、シデムシ達がいなければ、
地表には生物の死骸と屍毒のプトマインが満ち溢れ
恐怖の大地になるであろうことが指摘されている。

ファーブルの言葉はやや誇張に過ぎるが、
シデムシが生態系の重要な一端を担っているのは
まごうかたなき事実である。

生き物のむくろを好む人は少ない。
誰かの死は自分の死を連想させるからである。
かつて命あったものの姿が、
路傍にうち捨てられたまま朽ちてゆく。
道ゆく人は目をそむけ足を早めるだろう。

ただシデムシたちだけが、黙々と彼らの墓を掘ってゆく。

なまじ彼らの職業を知っている人は、
縁起の悪い虫として忌み嫌ったりもする。
虫の好きな連中にもあまり人気はない。
小学館「日本の昆虫」の三木卓も
「あまり気分のよくない虫」と身もフタもない紹介ぶりだ。
素直かつ正直な印象だろうから仕方がない。

しかし別に誰がどう思おうが、
シデムシは今日も魂の抜殻を埋めてゆく。
その行動にむろん宗教的な意味合いはない。
本能の命ずるままに埋めてゆくだけだ。

私はむしろその機械的な熱心さに、
すこし厳粛な気持ちを覚えてしまうのが常である。

シデムシ類は全員が黒ずくめな訳ではない。
仲間内には洒落たオレンジの紋の入った
モンシデムシのような伊達男もいる。

喪章してないと怒られるぞ。

ohhiratashidemushi0420_1.jpg (25925 バイト)
4月 東京都調布市

→INDEX    →TOP