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本邦のゾウムシ一族の最大種である。 |
子供の頃、夜の森に憧れていた。 もちろん昼の雑木林も楽しい。 しかし所詮はカナブンとスズメバチの巣である。 カブトやクワガタがその偉大な姿を現すのは、 なんつっても日が落ちた後だ。 とはいえやはり夜の森は暗いし怖い。 これで狭かったら面堂終太郎は完全にアウトである。 子供だけでゆくにはあまりに危険だし、 そのような気まぐれに付き合う大人は周りにいなかった。 憧れは憧れとして実行に移されぬまま、 いつしか歳をとってしまった。 気が付けば自分が大人になっていたのである。 もはや誰も私を止めるものはない。 いざ乗り込まん夜の森へ。 先日のホタル撮りで 多少の夜間撮影のコツを掴んだ心強さもあり、 デジカメを引っつかむと勝手知ったる森へと向かった。 夕方の5:30。 まだ日は高いが、 暗くなる前にポイントを押えておかねばならない。 がさごそとその辺を歩き回り、 樹液の出ている樹をチェックした。 樹液の量は時間帯で変わるため、 夕方はあまり賑わってはいない。 それでもカナブンやケシキスイ達が がめつく頭を突っ込んでいる姿はそこかしこに見られた。 ところで当然ながら森の中に街灯はない。 日が落ちれば闇の世界だ。 あまり奥の方に入ると迷ってしまう恐れがある。 遭難したのではシャレにならん。 ポイントは出口との距離や道筋を考えながら探すこと肝要。 やがて西の空に茜雲が現れ、そして消えていった。 午後6:30。 辺りは予想外に暗くなっていた。 空の見える場所では月明かりが差し込むが、 葉の生い茂った森の中には届かない。 まさしく漆黒の闇である。 意を決して最初のチェックポイントに向かうと、 樹液に大挙していたのは蛾のみなさんだった。 しくしく。 蛾の集く樹液のすぐ傍の樹に、 このオオゾウムシの旦那の姿があった。 その重戦車のような造型に魅了されつつ、 撮影したのがこれらの写真である。 ゾウムシの仲間はおおむね草食性だ。 米につくコクゾウムシをはじめ、 クリの実を食害するクリシギゾウムシや、 以前紹介した葉を巻くヒメクロオトシブミなども 広義のゾウムシの仲間に属する。 あ、あとエゴの実に産卵する 異相のエゴヒゲナガゾウムシもいたな。 オオゾウムシの幼虫はさまざまな樹の材を食べる。 そして成虫になると こうして樹液の酒場の客になるのであった。 その後、あまりの暗さに恐れをなしてしまい 7時過ぎには森を出た。 なんせライトの光が届かない場所は 墨を塗ったように真っ黒なのである。 夢中で撮影している最中、 ふと背後に夜が口を開けているのを感じてゾッとした。 闇に対する恐怖感はごく原始的なものだ。 それだけに拭い去るのは難しい。 開けた草原に出た時は、 光のありがたさを身にしみて感じたことである。 だから結局クワガタには会えなかった。 それでも夜の酒場のカブトムシには会えたし、 他にもさまざまな虫たちとの邂逅もあり ひとまず満足。 懲りずにまた行くかも。 |
![]() のしのし |
![]() ![]() 8月 東京都東村山市 |