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8月 東京都東村山市

オオゾウムシ  Sipalinus gigas
分布:日本全土

本邦のゾウムシ一族の最大種である。

といっても頭からお尻までのサイズは
せいぜい2センチ強だが、
その重厚な風貌にはずっしりとした存在感がある。
種小名の gigas は「巨大な」であるから、
世界的にも大きな部類に属するのだろう。

象虫とはよく付けたもので、
鼻面は冗談のように長い。
木を登ってゆく足取りはあくまで鈍重だ。
数あるゾウムシ類の中でも
群を抜いて象っぽい昆虫である。

本種もミヤマカミキリ同様に夜行性の虫だ。

子供の頃、夜の森に憧れていた。

もちろん昼の雑木林も楽しい。
しかし所詮はカナブンとスズメバチの巣である。
カブトやクワガタがその偉大な姿を現すのは、
なんつっても日が落ちた後だ。

とはいえやはり夜の森は暗いし怖い。
これで狭かったら面堂終太郎は完全にアウトである。
子供だけでゆくにはあまりに危険だし、
そのような気まぐれに付き合う大人は周りにいなかった。
憧れは憧れとして実行に移されぬまま、
いつしか歳をとってしまった。
気が付けば自分が大人になっていたのである。

もはや誰も私を止めるものはない。
いざ乗り込まん夜の森へ。

先日のホタル撮りで
多少の夜間撮影のコツを掴んだ心強さもあり、
デジカメを引っつかむと勝手知ったる森へと向かった。

夕方の5:30。
まだ日は高いが、
暗くなる前にポイントを押えておかねばならない。
がさごそとその辺を歩き回り、
樹液の出ている樹をチェックした。
樹液の量は時間帯で変わるため、
夕方はあまり賑わってはいない。
それでもカナブンやケシキスイ達が
がめつく頭を突っ込んでいる姿はそこかしこに見られた。

ところで当然ながら森の中に街灯はない。
日が落ちれば闇の世界だ。
あまり奥の方に入ると迷ってしまう恐れがある。
遭難したのではシャレにならん。
ポイントは出口との距離や道筋を考えながら探すこと肝要。

やがて西の空に茜雲が現れ、そして消えていった。
午後6:30。
辺りは予想外に暗くなっていた。
空の見える場所では月明かりが差し込むが、
葉の生い茂った森の中には届かない。
まさしく漆黒の闇である。

意を決して最初のチェックポイントに向かうと、
樹液に大挙していたのは蛾のみなさんだった。
しくしく。

蛾の集く樹液のすぐ傍の樹に、
このオオゾウムシの旦那の姿があった。
その重戦車のような造型に魅了されつつ、
撮影したのがこれらの写真である。

ゾウムシの仲間はおおむね草食性だ。
米につくコクゾウムシをはじめ、
クリの実を食害するクリシギゾウムシや、
以前紹介した葉を巻くヒメクロオトシブミなども
広義のゾウムシの仲間に属する。
あ、あとエゴの実に産卵する
異相のエゴヒゲナガゾウムシもいたな。

オオゾウムシの幼虫はさまざまな樹の材を食べる。
そして成虫になると
こうして樹液の酒場の客になるのであった。


その後、あまりの暗さに恐れをなしてしまい
7時過ぎには森を出た。
なんせライトの光が届かない場所は
墨を塗ったように真っ黒なのである。
夢中で撮影している最中、
ふと背後に夜が口を開けているのを感じてゾッとした。

闇に対する恐怖感はごく原始的なものだ。
それだけに拭い去るのは難しい。
開けた草原に出た時は、
光のありがたさを身にしみて感じたことである。

だから結局クワガタには会えなかった。
それでも夜の酒場のカブトムシには会えたし、
他にもさまざまな虫たちとの邂逅もあり
ひとまず満足。

懲りずにまた行くかも。
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のしのし
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 8月 東京都東村山市

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