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9月 あきるの市

オニヤンマ  Anotogaster sieboldii
分布:日本全土

大きく、強く、美しい
日本最大のトンボである。

トンボの生態は、基本的にどこかに止まっているものと
延々と飛び続けているものに大きく二分される。

オニヤンマは飛翔型のトンボの代表であり、
ほぼ決まったコースを一定の速度でつねに巡回している。
多くは川や道に沿ってまっすぐ飛び、
適当なところでぐるっとUターンして戻ってくる。

さしわたし15センチあまりに及ぶ銀翼を震わせ、
高速で一直線に飛行する姿は
ダイナミックで勇壮である。
私はいつも足を止めて呆けたように見とれてしまう。

小さい頃、近所の沼で
さまざまなヤゴを掬ってきたことがある。
水槽に入れて飼っていたが、
これらトンボの子供たちは親同様に獰猛な連中だ。
餌をやっているにも関わらず、
当たるを幸い殺し合いを始めてしまった。
わかりやすい弱肉強食の図である。

気が付けば大きいヤゴが2匹だけになっていた。
天下一武闘会の決勝戦である。
力の差はほぼ互角らしく、
しばらく睨みあいの日々が続いた後に
ついに勝敗は決した。

1匹が先に脱皮してしまったのである。

ヤゴの脱皮自体はさほど時間はかからないが、
脱皮直後の身体は白く柔らかい。
このスキを見逃す相手ではなかった。

ひとり勝ち残ったヤゴは悠々と脱皮し、
やがて羽化をした。
ある朝水槽を覗くと、
天井に巨大なトンボが止まっていた。
オニヤンマだった。

そうか、それじゃ他のヤゴは
勝ち目がなかったなあ、と思った。


9月初頭、河原に腰を下ろしていて
ウラギンシジミに止まられた話は前回に述べた。
その場所は、
オニヤンマの巡回の折り返し地点だったのである。
休みなく飛んでいるオニヤンマも、
コースの端までくるとたまに小休止することがある。
私はひたすらその瞬間を待って、
30分近くも息を潜めていたのだ。

止まり姿は独特で、
翅を広げたまま垂直にぶら下がって休む。
右下の写真をご覧頂きたい。
もっとも決して長い時間ではなく、
タイミングを外すとすぐにパトロールに戻ってしまう。
デジカメ一丁で立ち向かうにはやっかいな相手だ。

それでも、その大きな眼鏡の
翡翠色の輝きに惹かれて、
なんとなく待ち続けてしまったのだった。

大きな透明の翅と細い胴体は、
あまりに均整の取れたフォルムだ。
そこには、アシナガバチやカマキリにも通じる、
機能に徹した無駄のない造型美が存在している。
美しいトンボである。


その後川のほとりを歩いていたら、
珍しく水辺に下りているオニヤンマに出会った。
産卵を終えて弱っていたらしい。
静かに捕えると手の上に乗せてみた。
彼女は指にしっかりと掴まり、
背筋をぴんと伸ばして大きな翅をかすかに震わせた。

産卵を終えた昆虫は、
この世に生を受けた使命をすでに果たしている。
後はゆっくりおやすみ。
そう思い、また元の水辺にそっと戻した。


オニヤンマは決して珍しいトンボではない。
都区内でも少し水のある公園などでは、
その雄大な姿に出会うことができる。

ひつじ雲の浮かぶ高い空を、
まっすぐ横切ってゆく大きなTの字。

清々しい秋の訪れの光景である。


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 9月 あきるの市

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