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3月 東京都あきるの市

ルリタテハ   Kaniska canace
分布:日本全土

ひさしぶりに里山に足を運んだ。

ようやく春の兆しの見えてきた草原で、
馴染みのキタテハたちの歓迎を受けた。
ナナホシテントウと同様、
この時期に会える虫たちはだいたい越冬組である。
冬の寒さをじっと耐えて生き延びてきた連中だ。
暖かい陽射しに誘われて出て来たのだろう。
それぞれに舞い、春を謳歌している。

そんな中、キタテハに混じって
視界をかすめた黒い影があった。
一瞬ではあったが、その翼を走るライトブルーの線は
残像となって目に焼き付いた。

ルリタテハだ。

青いラインと白い肩章で装ったこの蝶は、
英米では"Blue Admiral"の称号を奉られている。
青の提督。
ううむ。格好いいぞ。

私は咄嗟にカメラを引っつかむと、その姿を追った。

かつて「花言葉」でも触れたように、
ルリタテハはホトトギスを食草とする蝶である。
ホトトギスが生えていればどこにでも姿を見せる。
決して珍しい蝶ではない。普通種だ。

しかしこれを写真におさめるのは結構難しい。
アカタテハと同じく、
人の気配に非常に敏感なのだ。
止まったと思ってカメラを構え、ちょっと腰を屈めただけで
つうと飛び立ってしまう。
この時に行方を見失うと二度と見つからない。
中央の写真にあるように、
翅を畳むと完全に枯葉に擬態してしまうのである。

この日、ルリタテハには都合3回会っている。
撮影に成功したのは最後の1頭だけだ。
これは腰の高さぐらいのところに打ち捨ててあった
ブリキの板のおかげである。
彼はこの仮設ステージが
非常に気に入っていたらしく、
どこかに行ってしまっても
2、3分もすれば必ず戻ってくるのである。

すぐそばの草に腰をおろし、気長に待った。
逃げられては待ち逃げられては待ち、
10回近くも繰り返したろうか。

害意がないと判ってくれたのか
単に根負けしたのか、
ついに彼は逃げるのをやめ、
私の接近を許してくれたのである。

おかげで望遠を使わずに
至近距離でマクロで撮ることができた。

最後には静止して翅をひろげ、
見事な模様をじっくりと見せてくれたものである。

写真が撮れたことよりも、
そんなふうに気を許してくれたことが
何だか無性に嬉しかった。

去り際に一礼すると、
彼は折から飛んできた仲間と連れ立って、
晴れた空高く舞い上がって行った。

デートなのか喧嘩なのかは判らなかったけれど。


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ruritateha0326_1.jpg (19431 バイト) 3月 東京都あきるの市

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