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今回で32回を数える本コンテンツで、 |
飛んでいるといってもやはりハンミョウだ。 踏み固められた明るい道を、 つうと飛んでは着地する。 あまり走り回ることはなく、 ちょっとした移動でもすぐに飛ぶ。 近所に買物に行くのに自家用ヘリを使う塩梅である。 さして珍しくもない虫の筈なのに、 その存在は一般にはあまり知られていない。 無理もない。 本種はとにかく小さいのだ。 ヒメハンミョウとはよく言ったもので、 頭から尻の先までが1センチに満たない。 本家ハンミョウは20ミリを越すことも珍しくないので、 ほぼ半分以下だ。 そんな小さくて細っこい虫が、 山道をぷい〜んと飛んでいても ハンミョウだと気づく人は少ない。 ハエかなんかだと思われるのが関の山である。 実際、トウキョウヒメハンミョウの飛ぶ様子は ハエのそれと酷似している。 本種かと思って目を凝らしてみたらハエだった、 てなことは珍しくない。 逆にハエだと思って適当にあしらったら 逃げる時にこの虫だと気付いた時もあった。 かような昆虫を相手にするには多少の根気がいる。 なんせ小さいので相当に寄らないと話にならない。 立ったまま撮ろうなんざあ言語道断である。 当然のように地べたに這いつくばり、 他の通行人を避けつつ 汗をぽたぽた垂らしながら追いかけ回した。 通行人にしてみれば、 這いずる男のカメラの先に目を凝らしたところで ハエのようなものしか見当たらないのだから、 相当な奇行に映ったに違いない。 いいのさ。いい加減慣れたってことよ。 結果はご覧の通りで、 この9ミリ程度の甲虫の背中は、 夏の強い陽射しの下で 思いがけず美しい光沢を放っていた。 ただ、小さい上に動作が敏捷なせいもあり 肉眼で愛でるのはなかなか難しい。 虫眼鏡が必要である。 身体の割に大きな複眼は、 むろん獲物を迅速に見つけるためである。 彼もまた獰猛な捕食昆虫なのだった。 陽光は小柄なハンターの足元に影を作る。 その背後の乾いた地面には、 彼を追う私の影が落ちている。 真夏の照りつける太陽の下、 しばし鬼ごっこに興じる2つの影であった。 |
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![]() 8月 東京都東村山市 |