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9月 武蔵村山市

トノサマバッタ  Locusta migratoria
分布:北海道〜沖縄

トノサマガエルと並び、
現代日本に残る数少ない身近な殿様である。
バカ殿様はさておき。

ところでこの2種類の殿様には妙な共通点がある。
いずれも影武者を用意しているのだ。

つまり、その辺で目にする
トノサマガエルやトノサマバッタは、
かなりの確率でニセモノなのである。

誤解されがちなのだが、
トノサマガエルは関東地方には生息していない。
ど根性ガエルの歌にも出てくるくせに、
東京にゃいないってんだから驚きだ。

「え〜、俺東京都民だけど、つかまえたことあるよ」と
思う方もおられよう。
ところが違うのだ。
関東で普通トノサマガエルだと思われている
緑色の立派なカエルは、
トウキョウダルマガエルっつって別な種類なのである。
私も子供の頃だまされたのよん。


トノサマバッタも似たような境遇にある。
子供にとってバッタはだいたい2種類だ。
頭のとんがったショウリョウバッタと、
顔の四角いトノサマバッタである。

しかしその辺でもっとも普通に見られる
「顔の四角いバッタ」は
たいがいクルマバッタかクルマバッタモドキであり、
トノサマバッタではない。
ついでに言えばカワラバッタだのイナゴやキリギリスとも
混同されがちだ。

かくいう私も、トノサマバッタだと思って撮った写真が、
図鑑と照らし合わせたら違ってたケースは数知れない。
実際に本物のトノサマバッタに会えば
一発でそれとわかるものなのだが、
似たような連中にもどうも惑わされてしまうのだった。

なぜわかるかというと、やはり殿様は殿様なのだ。
デカいし風格がある。
飛ぶ距離も半端ではない。
パッと飛び上がると軽く50メートルとか飛んでいってしまう。
人の気配には敏感なので、
一旦逃がすと追いかけるのは一苦労である。


そんな堂々たるお殿様は、
いつもひとり悠々と草原に君臨しておられるが、
時として群れをなすことがある。

何かの拍子で集団生活を始めた殿様方は、
荒ぶるもののふの群れへと変貌を遂げてしまう。
後ろ足が短くなり、代わりに翅が長くなる。
色も黒っぽくなっていきなり野武士の風情が漂う。
実際に気も荒くなる。

このように変貌した状態は「群生相」とよばれ、
ふだんの状態「単生相(孤独相)」と区別される。

群生相になったトノサマバッタは
数千万に達する大群となり、
長距離飛行をして草原や畑に襲来し、
あらゆる植物を食い尽くしてしまう。

遠目には黒い雲のようにみえる
この恐るべき簒奪者の群れは、
「飛蝗(ひこう)」として古来農耕生活者たちを
おびやかしてきた。
日本ではあまり見られないが、
過去には北海道で大規模な被害報告があり、
最近でも1986年に鹿児島県馬毛島で発生している。

この現象は、
ふだん単生相で生活しているバッタの個体数が
増えすぎることによって起こると言われている。
すなわち食料が不足するため、
新たな草地を求めて集団で大移動をすることで
種の保存をはかっているというのだ。

群生相のトノサマバッタに興味のある方は、
多摩動物公園の昆虫館で、
人為的に育てられたものが常時展示されているはずだ。
最近行ってないからわからんけど。


私の出会った殿様は、
さいわい悠々自適の生活を送っているようだった。
右中のものも単生相の褐色型である。

正面きって対峙してみると、
仮面ライダーの顔をしていた。

じゃあ何か、わしゃショッカー怪人かい。


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褐色型   9月 武蔵村山市





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 9月 武蔵村山市

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