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9月 あきるの市

ウラギンシジミ  Curetis acuta
分布:本州〜南西諸島

河原に腰を下ろしていると、
白銀に輝く三角形がひらひらと飛んできた。

写真では白く映っているが、
肉眼では本当に銀色に輝いてみえる。
「アルミ箔を畳んだよう」と評した人がいたぐらいだ。
表現としてはいささか色気に欠けるが、
言い得て妙である。

モンシロチョウよりは小さく、
ヤマトシジミよりは大きい銀の三角。

夏の野山の風物詩のひとつ、
ウラギンシジミの飛び姿である。

ウラギン君(雄である、ちなみに)は、
しばらく太平楽にへろへろ飛び回った後に
私の膝の上に腰を落ち着けた。
何かおいしいものかもしれないと思ったのだろう。
口のストローを伸ばして頻りに味をみている。


ウラギンシジミは
飛ぶ宝石ともいうべきシジミチョウの仲間の異端児である。
見た目も他のシジミ類とはかなり異なるし、
まずめったに花に吸蜜に来ない。
分類上もウラギンシジミ亜科として
独立したグループに属し、
本邦ではウラギンシジミ一種しか確認されていない。

花に来ない彼らのお好みは、
熟して落ちた果物だとか
動物の排泄物のたぐいなのだ。
川の水も大好きで、
夏場には河原に降りてちゅうちゅうと水を吸い上げている。

おそらく彼も水を飲みに河原に訪れたのだろう。
すると大好物の汗の匂いがしたもので、
ふらふらとそちらに吸い寄せられてしまったのだ。

冷静に彼の嗜好を考えると
止まられてあまり嬉しいものでもないのだが、
私は当然うっかり喜んでしまった。


以前、里山で保護管理に当たっている男性と
会話している最中に、
この蝶が飛んできておじさんの手に止まった話を
紹介したことがある。
あの時は本気で羨ましかった。

相手に害意さえなければ、
動物に寄って来られて悪い気はしない。
血を吸いたがったり
取って喰おうとする連中は論外だが。


膝に蝶を止めた私は、
とりあえず彼を驚かせないよう
じっと動かずにその姿を見つめていた。

シジミチョウの生態写真の撮影は決して楽ではない。
翅を開けば息を呑むほど美しい彼らは、
止まる時に翅を畳んでしまう癖があるのだ。
よほどリラックスするかどうかしないと、
動かずに翅を開いてみせることがない。

図鑑に載っている
翅を広げた美しいシジミチョウの写真は、
撮影者の根気と運のたまものなのである。

そのまま動かざること10分弱。
ウラギン君は午後の陽光を浴びて
ゆっくりとその翅を開きはじめた。

開かれた銀色の扉からは、
鮮やかな夕焼け空の色が覗く。

私は上半身だけを動かしてカメラのピントを合わせ、
そっとシャッターを切った。


残暑厳しい9月の小川のほとりの、
それはたいへん静かな邂逅だった。
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 9月 あきるの市

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