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8月 東京都調布市

ウスバキトンボ    Pantala flavescens
分布:日本全土


薄い翅の黄色いトンボでウスバキトンボである。
しかし字面をじっと見ていると
ウス「バキ」トンボのような気がしてくるのは
少年チャンピオンの陰謀か。

関東では晩夏から初秋にかけて見られる本種は、
非常に身近なトンボのひとつである。
都区内でもちょっと開けた場所にゆけば
普通に群舞している姿が見られる。
新宿御苑や水元公園はもちろん、
神宮球場や千葉マリンもOKである。

試合開始前、スタジアムの夕闇迫る空を
つうとトンボがよぎって行く眺めは美しい。

そう思うとドーム球場って本当につまらんな。
もっとも観客はトンボを見るために
球場に足を運んでいる訳ではないのだけれど。

なじみ深い黄色いトンボはしかし、
その行動に大いなる謎を隠し持っている。

トンボ類でも屈指の飛行能力を持つ彼らは、
強靭な羽をはためかせて
不思議な旅をするのだ。

春先、ウスバキトンボは南西諸島や九州南部に現れる。
そして短いサイクルで産卵→孵化、成長を繰り返し
その間にどんどん北上してゆく。

卵から孵化して成虫になるまではほぼ1ヶ月。
これは昆虫の中でも群を抜いてスピーディである。
羽化したトンボは群れをなして北へと移動し、
適当な水辺を見つけては産卵する。
孵った幼虫はすぐに成長して親になり、
ふたたび北へと旅立つ。

飛行ルートは海上を経ることも多く、
内陸よりも沿岸部の方が移動速度は速い。

データによれば鹿児島県では3月下旬、
長野県で6月中旬、
新潟県で7月中旬に初観測された報告がある。

北上は春から秋にかけて続き、
晩夏には東京を通過。
遂には北海道からカムチャツカ半島にまで到達する。

そして全滅してしまう。

ウスバキトンボは寒さに弱いのだ。
ことに幼虫は日本国内のほとんどの地域で越冬できない。
このため、毎年北上しているにもかかわらず
スタート地点はいつも南の島なのである。

いわば最終ステージに辿りついては
毎度リセットボタンを押している訳で、
一体何の為に北へ北へと向かっているのか
さっぱりわからない。

学者たちの間には、
版図を拡げるためであるとする説がある。
おそらく今までもそうやって彼らの仲間たちは、
熱帯から亜熱帯、温帯へと
その分布域を拡大していったのだ。

上空を横切るトンボたちの群れは、
遥かカムチャツカを超える日を夢見ているのだろうか。

翅先の黄色い斑紋がお洒落な、
放浪の民である。

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8月 東京都港区

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