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5月 東京都あきるの市

ウスバシロチョウ  Parnassius glacialis
分布:北海道・本州・四国

ハルジオンの咲き乱れる草原に、
一頭の白い蝶が遊んでいた。

蝶の飛翔といえば
翅をはためかせてひらひら飛んでいる印象が強い。
菜の花畑に群れるモンシロチョウたちのBGMには
「ちょうちょ」の歌がよく似合う。

だが、その蝶は拡げた翅を微動だにさせることなく、
上空から滑るように舞い降りてきた。
滑空である。
といってもトンボのような颯爽とした飛びっぷりではない。
風に乗るようにふんわりと舞い、ふと花に拠る。
なかなかに優雅な、
ウスバシロチョウの舞姿だ。

シロチョウの名があるが、
先に触れたようにモンシロチョウやスジグロシロチョウは
このような飛び方はしない。

事実、ウスバシロチョウはシロチョウ科には属さない。
ごく原始的なアゲハチョウの一種なのである。

このため、手元の「学研生物図鑑・昆虫I」などでは
ウスバシロチョウの名は相応しくないとして
「ウスバアゲハ」の名を提唱している。

しかし分類学的にはどうあれ、
素人目にはアゲハの仲間と思えと言う方が無理がある。
私たちにとって、このどこか気高い白い蝶は
やはりウスバシロチョウなのである。


同属には名高いウスバキチョウが含まれる。
薄黄色の翅に独特の紅の斑紋を持つこの蝶は
大雪山のみに生息し、
わが国の天然記念物に指定されている。

これらパルナシウス属の蝶について、
北杜夫はその著「どくとるマンボウ昆虫記」のなかで
一章を割いて語っている。
題して「アポロの蝶」。
太陽神アポロンの名を冠した美しいヨーロッパの高山蝶、
アポロウスバシロチョウに因む表題である。

本種ウスバシロチョウは、
かれらの中ではもっとも普通種だ。
平地でも群舞する姿を見ることができる。
見た目も決して派手ではない。
飛び方に注意していなければ、
モンシロやスジグロだと思って
見過ごしてしまうかもしれない。

しかしよく見るとその薄い翅は陽光を透かして美しく、
ふわふわと舞う姿には独特の気品が漂う。


この日出遭ったウスバシロチョウの数は
優に数十頭に達した。
カメラを意に介する風もなく、
私の目の前をつうと掠めてゆく。
おかげでその姿を十分に堪能することができた。

ただ撮影するとなると話は別で、
この気高い蝶はなかなか
一つ処で翅を休めてはくれないのだった。
ものの本によれば、
陽が差している間は基本的に飛んでいるらしい。
翳ったときに葉陰に舞い降りて止まる。
右下はそんな休憩時の一齣である。
そういえば陽光に向かう栗の木の梢に
彼らが群れをなして舞う姿を見た。


年に2回や3回発生するものが多い蝶の仲間の中で、
ウスバシロチョウは春しか羽化しない。
梅雨の季節になれば姿を消してしまう。
幼虫はムラサキケマンやエンゴサクの葉を食べて育ち、
また翌年の春に羽化登仙してゆく。

おっとりと雅やかな春の妖精である。
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usubashirochou0509_4.jpg (22745 バイト) 5月 東京都あきるの市

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