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黄鉄鉱 Pyrite FeS2 |
鉱物マニアには色んな種類がある。 水晶や緑柱石、トルマリンの透明感を好む人、 方鉛鉱や磁硫鉄鉱のずしりと重い金属の感触を好む人。 この箱では金属系の鉱物標本を中心に紹介してみる。 メタリックな光輝に惹かれるマニアたちの心が 少しでも判って頂けたなら、これに過ぎたる幸せはない。 金属鉱物の代表格といえば 既に紹介ずみとはいえ、 やはり黄鉄鉱の右に出るものはない。 何と言っても結晶形がシャープで綺麗なうえ、 産出量が多くさまざまなタイプや大きさのものが楽しめる。 今回は双晶の繰り返しが作り上げた 手の平サイズのオブジェを紹介する。 標本箱に入れてしまいこむのもいいが、 デスクの上にころっと飾っておくのも悪くはない。 |
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ビスマス(自然蒼鉛) Bismuth Bi |
鉱物界には鉛以外に「鉛」の字を使う金属がふたつある。 ひとつはモリブデン鉛鉱や輝水鉛鉱の項で紹介した 水鉛(モリブデン)で、 もうひとつがこの蒼い鉛、ビスマスBiである。 比重が9.7〜9.8にも達する文字通りの重金属だ。 天然の状態で結晶することは稀だが、 塊状のそれにも独特の存在感があり標本の人気は高い。 写真のものは直径7,8センチ程の 丸く平たい石を割ったものである。 外側は何の変哲もない石ころだが、 内部は錫白色のまばゆい輝きを放つ金属で満たされている。 因みにこれは割ったばかりの新鮮な面で、 空気中に長い間さらされると次第に紅色を帯びた褐色になる。 ところで自然界では稀なビスマスの結晶は 人工的に合成することが可能である。 ショップでは虹色に輝く 立方体の集合体のような状態で売られている。 良心的なお店ならば「人工ビスマス」のラベルが 貼られている筈なので、 判っていて入手する分にはなかなか面白い標本だと思う。 |
写真1 写真2 |
濃紅銀鉱 Pyrargyrite Ag3SbS3 |
銀AgとアンチモンSbの硫化鉱物である。 アンチモンが砒素Asに入れ替わると 淡紅銀鉱Proustiteになり、 ともにルビー・シルバーと呼ばれる非常に人気の高い鉱物だ。 透明感のある赤色を湛えた立派な結晶群は たいへんに美しく、たいへんに高価である。 しかし残念なことにこの仲間は経年変化に弱い。 年月を経るごとに次第に透明感を失い、 いかにも古びた感じになってしまう。 それが判っているだけに、なんぼ素敵だろうが なかなか値札通りの大枚をはたく気にはなれない。 今回は奇跡的に小さな結晶の断片 (長辺約1センチ程度)が入手できたので 紹介できる運びとなった。 一見真っ黒でシャープな柱状の金属片だが、 ルーペで眺めると割れた部分がきらりと濃紅色に光る。 ルチルや海王石同様、私の好きなダークレッドである。 |
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針鉄鉱 Goethite FeO(OH) |
英名のゲーサイトGoethiteの方が耳になじむ。 鉱物に造詣の深かった文豪 ゲーテに捧げられた鉱物なのである。 ゲーサイトは化学式の通り水酸化鉄の鉱物で、 いわゆる鉄さびと同じ成分である。 ところが同成分の水酸化鉄の鉱物は 他にも鱗鉄鉱Lepidocrociteをはじめ、 結晶構造の異なるいくつかの種類が存在している。 これらの区別は肉眼ではほぼ不可能だ。 区別できない場合はとりあえず 褐鉄鉱Limoniteとしておく。 透輝石の項で述べた野外名である。 ゲーサイトの産状はさまざまだ。 ここで紹介する標本は煮えたぎった油の表面のような、 何やら不気味とも思える半球状の集合体になっている。 これは非常に細い針状の結晶が放射状に集合して 球体をなしているもので、 このような見かけのものを鉱物学では「腎臓状」と呼ぶ。 腎臓状を示す鉱物は色々あり、 ゲーサイトと並んでポピュラーなのは box.5で紹介した酸化鉄の鉱物・赤鉄鉱Hematiteである。 赤鉄鉱の腎臓状のものには、 ずばり腎鉄鉱Kidney Oreという別名があるくらいだ。 そんな訳でこの標本を見た瞬間、 てっきりヘマタイトだと思ったのだが 化学組成の異なるゲーサイトだった。 鉱物の肉眼鑑定は難しいものなのである。 それもまた楽しいのだけれど。 |
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カロール鉱 Carrollite Cu(Co,Ni)2S4 |
コバルト、ニッケルを含む銅の硫化鉱物だ。 英名のCarrolliteは アメリカのCarroll郡で発見されたことに由来する。 してみるとキャロル鉱のような気もするのだが、 普通はカロールで通っている。 この鉱物の魅力は 黄鉄鉱とタメを張れるシャープな結晶形と 鏡のような光輝である。 実際、あまりに反射が強いために 撮影には少々苦労した。 3枚の写真を紹介するが、実物の美しさには到底及ばない。 稀産鉱物ではあるが、機会があったらぜひ 手にとって見て頂きたい。 コバルトよりニッケルが多くなり、 化学式がCu(Ni,Co)2S4になると フレッチャー鉱Flecheriteという別の鉱物になる。 |
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磁硫鉄鉱 Pyrrhotite Fe1-XS(X=0.09〜0.17) |
写真は4センチ弱ほどの大きさの金属結晶の塊だ。 フラットな銀白色の方鉛鉱の周りに ブロンズ色の薄板を重ねたような 角張った卓状の物体が突き出ている。 磁硫鉄鉱Pyrrhotiteの結晶である。 金や黄鉄鉱、黄銅鉱を黄金色、 銀や赤鉄鉱、カロール鉱を銀白色の鉱物とするならば、 磁硫鉄鉱はまさしく真鍮色の代表だ。 この後に出てくる自然銅の明るい赤銅色に比べると、 重みと渋みのある色調である。 方鉛鉱と好一対をなすフラットな光沢を持ち、 その結晶形とあいまったメカニックとも言うべき独特の雰囲気は 金属鉱物の中でも非常に存在感の強いものだ。 しかしながら安定度の低い鉄鉱石の常として、 本鉱も経年変化にはあまり強くない。 錆びやすい上に 古くなってくると雲母が剥げるように 結晶が壊れてしまうのだった。 化学式のFe1-XSは 鉄と硫黄の割合が一定ではないことを示している。 このことは本鉱のもつ磁性とも関係があるらしい。 |
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黄銅鉱 Chalcopyrite CuFeS2 |
黄鉄鉱と並ぶポピュラーな金属鉱物なのだが、 実は肉眼に見えるような結晶での産出はあまり多くない。 結晶は四面銅鉱に似たややルーズな偽正四面体を示す。 写真で三角形の面がお分かり頂けると思う。 特徴的なのは結晶面に条線が入ることと、 なぜか面がやや膨らんでいるというか 湾曲している点である。 色彩的には黄鉄鉱や金と同系の黄金色だが、 輝きや色味が明らかに異なるので区別がつく。 これは写真で見比べるよりも やはり実物の標本を手に取ってみた方が判りやすい。 また、写真3に示したように 表面に虹色の遊色(イリデッセンス)を示すことが多いのも ひとつの目安になる。 これはルーマニア産の標本だが、 銅山の多い日本でもかつては各地で美品を産出した。 「外国産はどうも結晶の形がだらしない。 日本産のものが一番シャープで美しい」とは、 小室宝飾のご主人・小室吉郎氏の言葉である。 氏によれば秋田県尾去沢鉱山産のものが世界一だという。 しかし鉱石輸入の自由化にともない、 コストのかかる国内の鉱山は次々に閉鎖に追い込まれた。 現在日本で稼動している鉱山はもはや数えるほどしかない。 くだんの尾去沢鉱山もとうの昔に閉山し、 現在は跡地を利用して 「マインランド尾去沢」という観光施設になっている。 |
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自然銅 Copper Cu |
銅は単一の元素で構成される鉱物としては 最も産出量の多いもののひとつである。 シャープな結晶を示すことはまれで、 この標本のような樹枝状での産出が一般的だ。 写真の標本は新鮮な赤銅色に輝いている。 このような色に見覚えはないだろうか。 そう、まさしく新しい10円硬貨の色なのだ。 10円玉は銅貨なのでこれは当り前なのだが、 しかし財布の中にある10円玉の多くは まずこのような新鮮な色はしていない。 殆どはくすんだ茶色になっている。 これは鋳造されてから時間が経って表面が酸化しているので、 銅は錆びやすい金属なのだ。 従ってこの標本も時間が経てば色がくすんでゆく。 が、ちょっと待て。 まったく錆び色がついていないってことは、 これってそんなに採掘されてから間もない新品なのか? 皆さんは古くなった10円玉に 塩素系のトイレ洗浄剤を垂らすと、 表面がピカピカになるのをご存知だろう。 洗浄剤は希塩酸である。 標本市場に並んでいる自然銅も、10円玉同様 酸で表面をリフレッシュさせているものが多いのだった。 |
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トゥペルスァツィア石 Tuperssuatsiaite Na2Fe3Si8O20(OH)2*4(H2O) |
緻密な灰色の母岩(アルカリ性玄武岩)の表面に 浅い穴があいている。 覗いてみると直径2,3ミリほどの やや褐色を帯びた緑色の毛の塊が ちょこちょことへばりついている。 1984年にグリーンランドのTuperssuatsiaで発見された 稀産鉱物・トゥペルスァツィアイトの針状結晶の集合体なのだ。 化学組成的には水を含むナトリウムの珪酸塩鉱物である。 珍しいということと、 独特の白っぽい布状の形態で産出し 「山皮」の俗称で知られるパリゴルスキー石 Palygorskiteに近い仲間だというくらいしか情報はないのだが なんだか可愛らしいのでここに紹介してみた。 磯辺のウニの巣をのぞいたような風情である。 |
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