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魚眼石 Apophyllite KCa4(Si4O10)2(F,OH)・8H2O |
box.3では淡いグリーンを帯びた小さな結晶を紹介した。 こちらは7センチを超える大きさの 堂々とした群晶標本である。 色彩こそないが、清楚な雰囲気を身に纏った 非常に美しい眺めである。 魚眼石は図鑑ではずいぶん前から知っていたが、 インド産の実物の標本を見てから すっかりファンになってしまった鉱物である。 同じ無色透明な鉱物でありながら、 水晶とはまったく質の異なる 柔らかい光輝に魅せられてのことだ。 以前も述べたように、 この鉱物のへき開面に現れるぼうっとした光を 古人は魚の眼になぞらえた。 溶岩中の空洞に、この後に紹介する沸石類を伴って 産出することが多い。 水先案内の意味もこめて、 この箱の最初に紹介してみた次第である。 |
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ソーダ沸石 Natrolite Na2Al2Si3O10*2(H2O) |
沸石Zeoliteグループは48種類の鉱物からなる かなり大きな一群である。 沸石、というとなんとなく 理科の実験で使う沸騰石を連想してしまうが、 別に何の関係もない。 沸石の仲間は加熱すると水を生じる。 その様子があたかも沸騰しているかのようであるため、 この名前がついた。 英名ゼオライトもギリシャ語の「沸騰する石」に由来する。 魚眼石の項で述べたように、 溶岩質の岩石のくぼみや空洞に 結晶の集合体として産出することが多い。 こういう場所には他の鉱物の結晶も生成しやすいので、 さまざまな標本で脇役をつとめている。 前記の魚眼石はもちろん、 今まで紹介してきたカバンシ石やベニト石、 海王石といった顔ぶれを引き立てている白い背景は すべてこれら沸石の仲間なのである。 むろん沸石自身も結晶しやすいこともあり、 それぞれに独特の存在感を主張している。 最初に紹介するのはナトリウムを主成分とする沸石、 ソーダ沸石Natroliteの美しい針状結晶の集合体だ。 和名のソーダはナトリウムのことを指し、 「曹達」という漢字をあてる。 従ってラブラドル長石の別名・ 曹灰長石の「曹」は ナトリウムを表わしているのである。 ちなみに「灰」はカルシウムを指す。 見た目通りに華奢な鉱物なので、取り扱いには注意が必要。 |
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スコレス沸石 Scolecite CaAl2Si3O10*3(H2O) |
ソーダ沸石のナトリウムNaを カルシウムCaに置き換えたものが、 ここに紹介するスコレス沸石Scoleciteである。 魚眼石と共産することが多い。 ソーダ沸石とは結晶構造も類似しており、 ここに示した標本も太さこそ2,3ミリに及ぶが 先のソーダ沸石そっくりの長柱状結晶だ。 本当はもっと長かったのだが、 うかつにも何本かの先が折れてしまった。しくしく。 ソーダ沸石の針より太かったので油断したのが 運のつきである。 |
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レビ沸石 Levyne (Ca,Na2,K2)Al2Si4O12*6(H2O) |
山口県産のこの標本は、 以前紹介した鳥取県産の金雲母によく似た風情である。 日本は火山国なので、 火山岩の空洞に鉱物の結晶が生成する産状は 比較的ポピュラーなのだ。 そしてこのタイプこそが 沸石類のもっともスタンダードな産出状況でもある。 日本は全般に沸石類には恵まれており、 中でも有名なのは湯河原温泉で発見された 湯河原沸石Yugawaraliteである。 発見者の桜井欽一氏(故人)は神田の鳥料理屋「ぼたん」のご主人で アマチュアの鉱物研究家だったが、 湯河原沸石の発見・研究により博士号を贈られた。 他にも桜井氏の名前を冠した桜井鉱Sakuraiiteや 欽一石Kinichiliteという鉱物がある。 沸石には強い吸着性があるため、 凝灰岩が沸石に変化した沸石岩は 工業目的で採掘が行われている。 あなたの家の猫やハムスターのトイレ砂にも 沸石岩が使われているかもしれない。 |
写真1 写真2 |
胆礬(たんばん) Chalcanthite Cu(SO4)*5(H2O) |
胆礬とは耳慣れない言葉だが、 正体は化学の方でいう硫酸銅である。 実験で美しい青色の結晶を作った記憶のある方もおられよう。 こちらも同様に透明感のある鮮やかなブルーを示す。 銅鉱床の酸化帯に二次鉱物として生成する。 鉱山の坑道内に鍾乳石のような形で現れることが多いので、 天井からぶら下がったつらら型や、 地面から立ちあがった霜柱型が多く見られる。 ここに示した標本は後者の霜柱タイプである。 美しい鉱物なのだが、水溶性だという弱点を抱えている。 入手した標本を「汚れているから」と洗ってしまう人がいるが、 正体のわからない時はこれは禁物である。 天水(雨水)の及ばない地下深くで生成される鉱物には、 水溶性のものは少なくない。 洗ったら溶けて流れてしまうのだった。 本鉱は水溶性ゆえに湿気にも弱い。 かといって乾燥させすぎてもいけない。 しかももろい。 結構はかない鉱物標本なのであった。 |
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ブラジル石 Brazilianite NaAl3(PO4)2(OH)4 |
ブラジル産のブラジル石とは 看板に偽りなしでよろしい。 色といい形といい、ありそうでなさそうな鉱物で 地元の山師たちの間では 正体不明の石として知られていたらしい。 新鉱物として記載されたのは結局1945年のことである。 分類的には燐灰石と同じ燐酸塩鉱物に属する。 言われてみれば以前に紹介した イエローの弗素燐灰石に似てないこともないが 結晶の形が異なる。 硬度5.5とやや柔らかいが カットすれば美しい宝石になる。 ブラジリアナイトの名で流通していることも多い。 |
写真1 写真2 |
透石膏(石膏) Selenite (Gypsum) CaSO4*2(H2O) |
雪花石膏・繊維石膏に続く3番目の石膏Gypsumは 透明な石膏・透石膏Seleniteである。 見た目こそ違うがこの3種類はすべて同じ鉱物だ。 透石膏の身上は名前の通りの抜群の透明感である。 写真2のへき開面を見て頂きたい。 菱形がたくさん重なったようになっている向こう側が 完全に透けているのがお分かり頂けるだろうか。 石膏は一方向にきわめて完全なへき開があるため、 この菱形は一枚一枚ひっぺがすことができる。 「楽しい鉱物図鑑」によれば フランスには10m超のサイズの結晶を産出するところがあり、 割ってガラス代わりに用いていたとか。 ところで本標本は某所で安価で購入したものだが、 乱暴なことに標本にそのまま タグ付きセロファンテープが巻きつけてあった。 テープをはがす際に、 へき開に沿って結晶が剥がれてしまったのは 本鉱の性質から言って当然である。 いくら安価だからと言ってひどい売り方だぞ東急ハンズ。 |
写真1 写真2 |
月長石 (ムーンストーン) Moonstone (Ca,Na)(Si,Al)4O8 |
既に紹介済みの月長石だが、 前回の標本では独特のシーン効果が判りにくかったので 改めて紹介したりする。 月長石はbox.7で挙げた ラブラドライトと同じ曹灰長石である。 光線の方向によってへき開面に閃光を発する点も同様だ。 その光が青白く月光を思わせるのでこの名がある。 本標本は数ミリ大の6粒の欠片だが、 2枚の写真で青白く光る様子が判って頂けると思う。 この効果は結構個体差が大きいので、 お店で購入する際にはよく確認することをおすすめする。 産出量が多くてよく出まわる上に安価なので、 慌てて買わなくてもたぶん大丈夫。 |
写真1 写真2 |
キノ石 Kinoite Ca2Cu2(Si3O8)(OH)4 |
青色を示す鉱物は 胆礬をはじめ銅がその発色に絡んでいる場合が多い。 この美しいキノ石も例外ではない。 クリスマス鉱山では 白い石灰質の岩石の表面に皮膜状に張りついて産出する。 標本の表面がきらきら光っているのは キノ石のそれではなく、 透明な魚眼石の微細な結晶が覆っているためである。 |
写真1 写真2 |
ルチル入り水晶 Rutiled Quartz SiO2 |
この箱の最後に、水晶の変り種をふたつ紹介しておきたい。 ひとつめは以前に紹介したルチル入り水晶の 出血大サービス版である。 なにが出血大サービスかと言って 封じ込められているルチルの針状結晶の量である。 真鍮色の鋼線が大量に含まれているため、 水晶自体が真鍮色に輝いている。 光を当てるとルチルの結晶が乱反射を起こし、 虹色の閃光を放つ。 非常に美しい標本である。 |
写真1 写真2 |
曲がり水晶 Bended Quartz SiO2 |
産出量の多い鉱物である水晶には、 突然変異とも言うべき変り種が色々と存在する。 この「曲がり水晶」と呼ばれるものも、その一つだ。 自然界には、まっすぐな結晶が集まって 球状になっているケースはあっても 結晶それ自体が曲がっていることは 輝安鉱のように柔らかい場合を除けば非常に稀である。 水晶も普通に成長すれば素直に真っ直ぐ育つ。 これはそれが何らかの原因で 途中でちょっとひねくれてしまったのである。 写真2でその反り具合が判って頂けよう。 水晶自体は高価なものではないが、 このような変り種は稀産であるためにそれなりの値がつく。 曲がり水晶は派手に曲がっているほど高価になる。 しかるに、この標本は曲がり具合が やや地味なのをお許し願いたい。 鉱物趣味は水晶に始まって水晶に終わるともいう。 奥の深い鉱物である。 |
写真1 写真2 |