Notes/14
エメラルド(緑柱石)
Emerald (Beryl)




















Be3Al2Si6O18
鉱物としてはすでに紹介ずみの
アクアマリンやヘリオドールと同じ緑柱石である。
従って産出量もそれら同様まあまあ多い。
だのに宝石としてはずっと格上にランクされている。
その理由は概ね歴史的なものだ。
なんせクレオパトラの昔から崇め奉られて来た宝石である。
おまけに歴史が古いだけに
めぼしい産地の上質の品はあらかた採り尽くされてしまっている。

宝石商の店頭に並ぶ様々なカット石の中で、
エメラルドほど傷の多いものはない。
手に取って眺めてみて傷も色むらもないものは
まず合成品か模造品だと思って間違いないくらいだ。

そんな傷ものでもエメラルドの需要は高い。
それゆえカットできるサイズで透明度の高いものは、
多少のひび割れや傷があっても
片っ端から宝石市場の方に回ってしまう。
標本市場には基本的におこぼれ品しか来ない。
同じ緑柱石でありながら、
アクアマリンに比べて透明度の低い標本ばかりなのは
このためである。

とはいえ、品質さえ問わなければ
産出自体は結構多いし人気も高いので
ショップには様々なグレードの品が並ぶ。
透明感があってバランス良く母岩についているようなものは
軽くゼロが5〜6個は並ぶし、
色が濃いもの、いまいち見栄えの悪いもの、
小さな結晶の断片でよければ
2000円程度から手に入る。

但し母岩つきのエメラルドの標本は注意が必要で、
特にコロンビア産のものは後から接着したものが多いという。
「という」と記したのは、
素人目には全然それと判らないからだ。

鉱物コレクションは欧米ではかなりメジャーな趣味なので、
コレクター相手の商法が色々と成立している。
分離結晶よりも母岩つきの方が高く売れるから、
無理矢理くっつけてしまうのである。
ここに紹介したものはグレードの高い品ではないので
わざわざ接着するほどのこともないとは思うが、
絶対という保証はない。

緑色の発色はクロムとバナジウムによるものとされる。
産地によって色合いは異なり、
写真3,4の中国産の標本は
クロムを含まないバナジウム発色のものだと
ラベルに記されている。
やや蛍光色を帯びた明るい色彩である。
写真1
写真2
写真3写真4


錫石
Cassiterite




SnO2
錫石Cassiteriteは酸化錫の鉱物だ。
と書いてしまうと地味な風情だが、
強い光沢を放つ透明感のある結晶は見栄えがして
鉱物標本としての人気は高い。
写真のように水晶と共産することも多く、
美しいコントラストが人気に拍車をかけている。

錫の最も重要な鉱石であり、産出も多い。
とはいえ現在金属としての錫の需要は少ない。
身近なところではハンダづけのハンダに使用されるくらいである。

硬度が6〜7と高く、丈夫なこともあって
英名のキャシテライトの名で宝石として流通することもある。
写真1
写真2


燐重土ウラン鉱
Uranocirsite










Ba(UO2)2(PO4)2*12(H2O)
ウランUは酸素と結びついて閃ウラン鉱UOという鉱物を作る。
ピッチブレンドの異名を持つこの鉱物は
ウランの非常に重要な鉱石だ。

そして閃ウラン鉱を含む鉱床では、
地下水を媒介してさまざまなウランの二次鉱物が生じる。
代表的なものが燐酸基とカルシウムが結びついた
燐灰ウラン鉱Autuniteで、
ここに紹介する燐重土ウラン鉱は
この燐灰ウラン鉱グループに属する鉱物である。
重土の名の通りカルシウムの代わりに
バリウムを含んでいる。

ちなみに重の字はタングステンの鉱物
(灰重石、マンガン重石など)にも当てるが、
その場合は「重石」とつくことが多い。
「重土」または単に「重」一字の場合には、
バリウムを指すことが殆どである。

燐灰ウラン鉱も燐重土ウラン鉱も共に放射能を発しており、
紫外線を当てると蛍光を放つ。

ところでこの手の放射性鉱物は
全て蛍光を放つかといえば、そういう訳でもない。
カルシウムやバリウムの代わりに銅を含む
燐銅ウラン鉱Torberniteは
やや濃い緑色の美しい鉱物だが、蛍光性はない。
銅が発光を妨げているのかもしれない。
写真1
写真2
石黄
Orpiment




















As2S3
ダイアモンドを上回る屈折率を持ち、
新鮮な破面は眩しい黄金色に輝く。
非常に美しいこの鉱物の正体は硫化砒素だ。
やはり硫化砒素の鉱物である
真っ赤な鶏冠石Realgarを伴って産出することが多い。

このような標本は非常に美しいものだが、
残念ながら同時にはかなくもある。
まず第一に石黄も鶏冠石も硬度が1.5〜2程度しかない。
うっかり落としたり軽くぶつけただけで
もろくも結晶が崩れてしまう。
第二に保存性が悪い。
硫黄の化合物にはしばしば見られる現象だが
湿気に弱く、光にも弱い。

弱いだけならまだいい。
石黄や鶏冠石をはじめ、
白鉄鉱など安定度の低い硫化鉱物や自然硫黄は
水分と結びついて硫酸を生じる場合がある。
人体に危険な程の量にはならないものの、
一緒に収納している他の鉱物や標本箱には
深刻な悪影響を及ぼす。

光に弱い、というのは先に挙げた胆礬もそうだが
光化学反応を起こしてしまうのである。
表面が次第に曇り、見栄えのしないものになってしまう。

従って石黄や鶏冠石の標本は
なるべく採れたてのものを入手するのが望ましい。
火山国の日本でも産出するので、自分で採集にゆくのも手だ。

本鉱は図鑑によっては
雄黄あるいは雌黄と紹介されている場合がある。
これは少々ややこしい経緯があって、
元々中国では鶏冠石を雄黄、石黄を雌黄と呼んでいた。
ところが明治時代、日本で西洋式の鉱物学が成立した際に
誤ってOrpiment(中国における雌黄)を
雄黄と訳してしまったのである。
後に混乱を避けるために石黄という名前が
提唱されたが、いまだに雄黄と呼ぶ人もいるのだ。
一方、中国式に従えばやはり本鉱は雌黄なので、
そう記している文献もある。

このような混乱は他にもあり、
堀秀道先生は古代中国で言われていた方解石も、
実際には現在の石膏であったとする説を唱えている。

写真3は水晶の中に石黄が封じ込められている
珍品である。
これならやや長持ちするかもしれない。
写真1
写真2
写真3
めのう(石英)
Agate (Quartz)















 
SiO2
box.2で地味な原石を紹介しためのうである。
今回は標本としてちょっと面白いものを2点ほど挙げてみる。

写真1は直径3センチほどのクルミのようなボールを
輪切りにしたものである。
切断面は研磨されており、
内部の空洞にめのうが生成されているのがよくわかる。
中に一部、キラキラとした結晶になっているのは水晶だ。

以前述べた通りめのうは非常に結晶の小さい石英である。
これが肉眼で見える大きさになったものを水晶と呼ぶ。
従ってめのう中に結晶らしいものが確認できれば、
その部分は当然水晶なのであった。

写真2、3はこのようなめのうをもっと薄くスライスし
研磨したものである。
デパート等で1枚500円程度で売られている品物だ。
中には見事な赤色やブルーのものもあるが、
そういったものの大半は着色品だ。

めのうの着色加工にはそれなりの技術が必要で、
ドイツのイダー・オバーシュタインは
この手の加工技術で世界的に有名な町である。
日本では山梨県で行われている。
双方ともにかつてはめのうの産地だった場所だ。
現在では主にブラジルから原石を輸入して加工している。

こういった飾り石には人間の手が加わっているが、
その縞状の模様や造型は自然の手になるものである。
安価なコレクションとして手元に置いておくのも悪くない。

ところで宝飾関係ではめのうの呼称は少々混乱がある。
いわゆるめのうの「直訳」はアゲートagateだが、
市場でオニクスonyxと呼ばれているものも正体はめのうである。
本来は縞瑪瑙を指す言葉だったが、
最近では主に黒一色の玉髄(カルセドニー)のことを
オニキス、オニクスもしくはブラックオニキスと呼んでいる。

また、石英の飾り石には他にも
カーネリアン(紅玉髄)やアベンチュリン、
サード、サードニクス等の呼称もある。
これらの分類はいまいちはっきりしていない。
商品名のようなものだと思った方がいい。
写真1
写真2
写真3





ロレンツェ鉱
Lorenzenite





Na2Ti2Si2O9
ラベルには「ローレンツェン石」とあるが
ここは「加藤の鉱物・化石コレクション」に従って
ロレンツェ鉱としておく。

ナトリウムとチタンを含む珪酸塩鉱物で
あまりメジャーな存在とは言えないが、
板状の結晶形が見事なのと
ざらついた褐色不透明の質感が面白いので
紹介してみた。
よく見ると細かい粒子がきらきらと
縮緬のような金属光沢を放っている。

地味な鉱物だが、
落ち着いた風合いが好ましい。
好きな標本のひとつである。
写真1
写真2
モルガナイト(緑柱石)
Morganite (Beryl)







Be3Al2Si6O18
鉱物収集家であり銀行家であったJ.P.モルガンに因む
モルガナイトは、
エメラルドやアクアマリンと同じ緑柱石(ベリル)である。
緑色のものをエメラルド、水色のものをアクアマリン、
黄色のものをヘリオドール、
そして桃色のものをモルガナイトと呼ぶのだ。
写真の標本も非常にうっすらとピンク色を帯びている。

しつこく述べているようにこれらの石の価値は
色の濃さで決まるため、
この標本はモルガナイトとしてのグレードは高くない。
表面にリチア電気石が共産している様子が
なかなか面白いので入手したものである。

緑柱石と電気石はこのようにしばしば共産し、
どちらも結晶が六角柱状なので少々紛らわしい。
が、見慣れると区別は比較的容易である。
緑柱石は端面が平らであるのに対し、
電気石は水晶のように錐状でこそないものの尖っている。
また、断面も電気石は六角形というよりは
やや膨らんだ三角形のような形になることが多い。
長辺方向に明瞭な条線が入るのも特徴だ。
写真1
リチア電気石
Elvite





Na(Al,Fe,Li,Mg)3B3
Al3(Al3Si6O27)(O,OH,F)4
そんな訳でこちらはリチア電気石である。
様々な色彩があり
赤味を帯びたものをルベライト、
青味を帯びたものをインディコライト、
輪切りにすると中心と外側で色が変わっているものを
ウォーターメロンと呼んでいる。

ここに示したような緑色系一色のものは
一番ざらにあるタイプで、従って特に名称はない。
しかしシャープな結晶形と透明感は
やはりトルマリンとしての美しさを存分に満喫させてくれる。

以前も書いたが、リチア電気石は贅沢を言わなければ
美品が容易に入手できる宝石である。
水晶・ざくろ石・ほたる石と並んで
まず最初に標本箱に収めたい鉱物のひとつといえよう。
写真1
ユークレース
Euclase









BeAlSiO4(OH)
清楚な無色透明の結晶の中に
うっすらと青いラインが浮かんでいる。
本鉱に特有の非常に美しい眺めである。
これは別に内包物(インクルージョン)という訳ではなく、
ユークレースというのはこういう鉱物なのである。

この青色の正体は何だかよく判っていない。
アフリカ産のものには全体がブルーに輝いている石もあるという。
ユークレースのグレードはこのラインで決まる。
ブルーの部分だけをカットして宝石にしたりするためだ。
従ってそのような石は大変に高価になる。
逆にラインのまったく入らない石もあり、
これはまずまず安価だ。


写真の標本の結晶は7、8ミリのサイズだが、
これから先は1ミリ大きくなるごとに
値段が倍倍プッシュになるとのこと。

決してよく見かける鉱物ではない。
産出が少ない時には上記の理由もあり
ちょっと高額になっている。
しかも必ずしも値段に見合う美しさであるとは限らない。

写真の標本は水晶の群晶の中に
小さな結晶が紛れこんでいるもので、
幸いまとまった量の産出があったらしく
こなれた値段になっていた。

雰囲気は水晶によく似ているが、
結晶の形と長辺方向に条線が入る点が異なる。
写真1
写真2