Notes/15
クリソコラ(珪孔雀石)
Chrysocolla







(Cu,Al)2H2Si2O5(OH)4
*n(H2O)
box.1で少し紹介したクリソコラの
これがまず典型的な標本である。
稀産という訳ではないのだが、非常に人気が高いために
すぐに店頭から姿を消してしまう。
求めやすい価格で美しいためだろう。
ただしこれがアメリカに行くと立派な宝石扱いになり、
重さもグラムやポンドではなく
カラットで取引されているというから驚きだ。

鮮やかな水色の部分がクリソコラである。
肉眼で見えるような結晶を示すことは殆どなく、
塊状や皮膜状での産出が多い。

と言うとちと地味な感じだが、
本鉱は石英やオパールと共産することが多い。
写真の白くキラキラした部分が石英というか水晶である。
市場ではこのタイプの標本が最も好まれ、また美しい。

本鉱自体は柔らかくて
加工や研磨にはあまり適さない。
石英と混ざっているものの方が
加工しやすく、また人気も高いのであった。
写真1
写真2
写真3
写真4


白鉛鉱
Cerussite





Pb(CO3)
これまた非常に人気の高い鉱物である。
正体は鉛の炭酸塩なのだが、
屈折率が高く清楚な輝きを放つ上に
鉛の鉱物だけあって比重が高い。
ずしりと手に感じる重さが
この鉱物の存在感をより一層際立たせているように思う。

結晶しやすい性質があり、
またさまざまな形で双晶をする。
写真の雪の結晶のようなものは、
3つの板状結晶がルチルのように星型に交わり(3連双晶)、
それが繰り返された結果、
出来あがった造型である。

考えてみれば雪の結晶も自然の造型なのだから、
鉱物界にも同様の芸術家が存在してもおかしくはない訳だ。
写真1
写真2


草入水晶(石英)
Rock Crystal (Quartz)











SiO2
草入と言っても本物の草が入っている訳はない。
草のように見えるインクルージョンを含む水晶を
このように呼んでいるのである。
写真の標本の「草」の正体は判らないが、
深い緑色が苔のような風情を醸しだし
なかなか味わい深い眺めである。

水晶を好む人はひとり鉱物マニアに留まらない。
宗教家から水石の愛好家に至るまで幅広いファン層がある。

日本における鉱物収集は
20世紀以降の舶来の趣味だが、
水石や美石は古くから通人の観賞の対象になっていた。
このようなお店を覗いても別に鉱物標本は見当たらないが、
水晶なら御馴染みの玉から原石に至るまで
なかなかな品揃えを見ることができる。
草入水晶や山入水晶に関しては、
そういう場所の方が
ミネラルショップよりも
素晴らしい品に出会えたりもするものだ。

但し美石店の品は決して標本ではなく
あくまで飾り石、観賞用なので
それなりの支出は覚悟しなければならない。
骨董品と紙一重の投資になる。

写真の標本は母岩を含む大きさが4センチ程度の小さいもの。
実は水晶の母岩つき標本はあまり見られない。
これは採掘者がすぐに母岩を外して
綺麗に洗ってしまうからである。

母岩つきを喜ぶのは我々鉱物ファンだけで、
こと水晶に関していえば、そんな連中は
たいして大きなマーケットではないのだった。
写真1
写真2
白雲母(スターマイカ)
Muscovite (Star Mica)







KAl2(Si3Al)O10(OH,F)2
白雲母は非常にメジャーな鉱物である。
入ってない鉱物標本はないし、
その辺に岩石にも普通に含まれている。
人工的に合成されてアイロンの断熱板や
ストーブの窓にガラス代わりに使われていたりもする。

それを今まで紹介しなかったのは、
写真写りがいまいち悪いから、という理由に尽きる。
へき開が非常に完全なため扱いにくい上、
非常に反射が強くてなかなかこれはという画が撮れない。
此度、ちょっと面白い標本を入手したので
やっと登場することとなった。

写真の標本はスターマイカと呼ばれるものである。
白雲母が見事に星型に結晶している。
星型や花型や雪型。
自然は実にたくみに美しい形を作り上げるものだ。
これに月でも加わろうものなら宝塚だよ。
写真1
写真2
アメトリン(石英)
Ametrine (Quartz)













 
SiO2
紫色の水晶をアメシストと呼ぶ。
対して黄色い水晶をシトリンと呼ぶ。
この2種類が混ざったものが、
ここに紹介するアメトリンだ。
なかなか安易なネーミングではある。

写真は錐面の方向から撮影したもので、
内部で2色に分かれているのがお分かり頂けると思う。
これはひとつの結晶の模様ではなく、
ふたつ以上の結晶がくっついた双晶なのである。
ブラジル式双晶というヤツだ。
組み合わさっているそれぞれの結晶の色が違うため、
このような見た目になる。

煙水晶の項でも述べたように、
有色水晶には人工のものが多く出回っている。
それでも煙水晶やアメシストは天然ものが多いが、
シトリンとなると店頭に並ぶものの殆どは加工品だ。
天然のシトリンは極めて稀産なのである。
一方、比較的多産するアメシストは焼くと黄色くなるので、
これをシトリンと称して売ってしまうのだ。
天然シトリンというふれこみで入荷したものが、
後に熱処理加工品であると判明するケースも珍しくない。
堀先生の鉱物科学研究所でも、
「シトリンに『絶対』はない」と釘をさしている。

信頼できるショップでは加工品である旨を明記して売っているが、
最近のミネラル人気を当てこんで
胡乱な商売をしている店も少なくない。
購入の際には注意もしくは
それなりの覚悟が必要である。

そんな次第もあって、
宝石商の店頭に並ぶ美しいシトリンは9割方熱処理品だ。
しかし宝石はそれ自体が既に加工品なので、
あまり目くじらを立てるのもおとなげないというものだ。

アメトリンにも合成品が存在する。
但しこちらは難易度の高い技術が必要とされるため、
却って天然品よりも高価だったりするのだった。
写真1
写真2
ダトー石
Datolite







CaB(SiO4)(OH)
何かを打倒する訳ではなく、
「分割する」という意味のギリシャ語
dateisthaiに由来する名前である。
特に稀産種という訳でもなく、日本でも産出する。
産状は様々で、結晶の形も比較的バラエティに富む。
色彩も無色から淡緑色、ピンク色に淡黄色と
なかなか華やかで美しい。

その割にあまりメジャー感がないのは、
透明〜半透明の珪酸塩鉱物ということで
十把一絡げにされている感じがあるからではないか。
この辺の仲間は魚眼石やダンブリ石、ぶどう石をはじめ
まず似たようなたたずまいのものが多い。
おまけに産状が色々となると、
いまいち個性が際立たないのである。

とはいえ個性が云々は観賞する側の問題だ。
写真の標本は4センチ大。
淡い緑色を帯びた清楚な光沢を放つ
美しいものである。
写真1
写真2
車骨鉱
Bournonite





PbCuSbS3
車骨とは歯車のことである。
本鉱は写真のように
歯車状のギザギザのある独特の産状を示す。
これは複数の結晶が集まって
このような形になっているのだ。

見た目と名前が面白いために人気の高い金属鉱物だが、
弱点は硬度が2.5〜3ときわめて低い点である。
このため、歯車のエッジがすぐに磨耗してしまう。
歯こぼれしてしまうのだ。
稀産ということもあり、良品にはなかなか出会えない。
但し出会ったところでそうむやみに高価なわけではない。

化学組成的には鉛・銅・アンチモンの硫化鉱物である。
宝石にならない類の鉱物で、
貴金属でもないものは
それほど値段は高騰しないものなのだ。
写真1
写真2
インディコライト
(リチア電気石)
Indicolite(Elvite)





Na(Al,Fe,Li,Mg)3B3
Al3(Al3Si6O27)(O,OH,F)4
さまざまな色彩で目を愉しませてくれるリチア電気石の、
ブルーのものを特にインディコライトと呼ぶ。
由来はインディゴ・ブルーなのだろうが
なぜインディ「コ」なのかは不明。
実際にインディゴライトと呼ぶ場合もあり、
こちらの方が納得がゆく。

もっともリチア電気石自体、
「リシア電気石」としている図鑑も少なくない。
ここでは「リチウムを含む」という意味で
リチアの表記を取っている。
ダイアモンドも一般には「ダイヤモンド」と呼ばれるが
Diamondという綴りがどうやっても「ヤ」とは読めないので
ダイ「ア」としている。

じゃあ野球場のアレもダイアモンドなのか、と言われると
やっぱりダイヤモンドなのだけれど。
一貫性がないよ俺。
写真1
写真2
アルチニー石
Artinite


Mg2(CO3)(OH)2*3(H2O)
繊維状を示す鉱物はこれまでもいくつか紹介してきた。
アルチニー石はその代表格のひとつである。
よく見ると無色透明の針状結晶が
集合して球状になっている。
写真の標本ではあまり針が長くないが、
毛足の長くて密に集合しているものは
優美な絹状光沢を放つ。

名前はイタリアの鉱物学者に因んだものである。
アルチニー石は日本にも産出する。
写真1
写真2