Notes/16
鶏冠石(雄黄)
Realgar







AsS
石黄の項で触れた、こちらが鶏冠石。
結晶や全体の雰囲気がよく似ていることに注目して頂きたい。
化学組成も同様に硫化砒素だ。
石黄がAs2S3なのに対し、鶏冠石はAsS。
違うのは何と言っても鮮やかな濃赤色である。

図鑑で見て以来、ぜひ手元に置きたかった鉱物なのだが
何しろ湿度や光や振動に滅法弱い。
希産鉱物ではないにもかかわらず、
あまり店頭では見かけることがなかった。
あったとしても大概くすんでしまっている。
灰色に近い暗赤色になっており、
とてもじゃないが鶏のトサカを名乗れるようなものではない。

そんな次第で、国際ミネラルフェアの会場で
この見事な赤色透明の結晶塊を発見したときは心が躍った。
大きさはほぼ4センチ弱。

現在は紙箱に詰めて暗所に保存しているが、
この美しさがいつまで持つかどうかは定かではない。
なかなかにはかない標本なのだった。
写真1
写真2
硫酸鉛鉱・白鉛鉱
Anglesite/Cerussite









PbSO4 [硫酸鉛鉱]
Pb(CO3) [白鉛鉱]
以前にトップページのコラムで紹介した、
ドイツの業者から購入した硫酸鉛鉱と白鉛鉱の標本である。
奥に見える飴色透明の六角板状結晶が硫酸鉛鉱。
手前の鋭い輝きを放つ白色透明の結晶群が白鉛鉱だ。

白鉛鉱が常に白色透明であるのに対し、
硫酸鉛鉱はさまざまな色彩を帯びる。
以前に紹介したものは無色透明の結晶片だったが、
今度は飴色だ。
どちらかといえば飴色の方がポピュラーではある。
しかし他にも緑や赤なんてのも見かけることがあるので、
形と光沢の感じで覚える方がいい。
無色のものは白鉛鉱に似ており、
写真のように共産することも多いので少々始末が悪い。

ただし、この標本に関しては
どちらも独特の晶癖を示しているので間違いはない。
写真では少しわかりづらいが、
手前の白鉛鉱はbox.15で紹介したタイプと同様に
雪の結晶のような貫入式双晶を示している。

母岩を含む大きさは4センチ大で、
決して派手な標本ではない。
しかし手に取って明かりに透かしてみれば、
キラキラと非常に強い光沢を放つ。

モロッコは有名産地である。
写真1
写真2


タンザナイト(灰れん石)
Tanzanite (Zoisite)












CaAl3(SiO4)3(OH)
緑れん石グループに属する鉱物、灰れん石の「れん」は簾と書く。
外観がスダレに似ているという理由でつけられた和名だ。

アフリカのタンザニアで
ちょっと変わった青紫色の灰れん石が発見されたのは
1960年代のことである。
これにとある宝飾店が目をつけた。
タンザナイトと名付け、新種の宝石として売り出したのである。
余人ならいざ知らず、
くだんの業者は世界的に有名な企業であったため
タンザナイトはあっという間に
高貴な宝石の座をのぼりつめてしまった。
Tiffany.Coの仕業である。

それゆえタンザナイトのカット石はもちろん、
原石の値段もべらぼうに高い。
宝石にするにあたっては加熱処理をして
色をエンハンス(強調)するのだが、
加熱品も非加熱品も同様に高価である。
2センチ大程の結晶でも余裕で6、7万の値がつく。
宝石だと思えば安いといえなくもないが、
私にとってはちょっとばかし綺麗な程度の鉱物標本である。
「キレイだな」と思うだけで、指を咥えて見ていた。

写真の標本はミネラルフェアで掘り出したもので、
その10分の1くらいの値段である。
決して良質の品とは呼べない。
が、透明度は高いし標本箱に収めるには十分な美しさである。

多色性があり、角度や光源によって
青や紫、時に緑色を示す。


アフリカでは全体が緑色の灰れん石も見つかっており、
塊状のルビーと共産する。
ショップでは明るい緑色の中に赤紫色を配した標本が
ルビー・イン・ゾイサイトの名前で売られている。
写真1
写真2
岩塩
Halite









NaCl
ご存知塩化ナトリウムの天然結晶である。
決して珍しい鉱物ではない。
にもかかわらず日本ではあまりお目にかかれない。

ナメクジに塩をかけると溶けてしまう。
これはもちろん実際に溶けるわけではなく、
浸透作用の関係で塩がナメクジの身体の9割方を占める水分を
吸いとってしまうのである。
ことほど左様に塩の吸水性は高い。
そして水に溶けてしまう。

日本は湿度が高い国なので、
岩塩は空気中の水分をどんどん吸収してしまうのだ。
従って結晶は簡単に崩れてしまう。
ヨーロッパでは非常に美しい岩塩の結晶が採れるのだが、
悲しいかな日本では長期保存が効かない。

写真のポーランド産の塊は、
一部が鮮やかな青味を帯びている珍品である。
この発色は分子構造に拠るものらしい。
で、なぜか光に晒していると色が消えてしまったりする。

天然の岩塩にはさまざまな不純物が含まれるため、
精製された塩よりも複雑な味がする。
好んで料理に使う人も多いゆえんである。
写真1
写真2
アレキサンドライト
(金緑石)
Alexandrite (Chrysoberyl)







 
BeAl2O4
ロシア皇帝の名に因んで命名され、
アレキの通称で親しまれるアレキサンドライトは
非常に人気の高い美しい宝石である。
人気の理由は何よりもその見事な変色性にある。
太陽光・蛍光灯下では青緑に、
白熱光下では紅にその色を変える。
分類学的には金緑石(クリソベリル)という鉱物の一種なのだが、
この変色の理由はよくわかっていない。
クロムの混入によるとする説がある。

何しろ人気も価格も高いので、
透明度の高いものは少々小さくてもカットされてしまい、
標本市場には稀にしか回ってこない。
回ってくるのはここで紹介するような不透明な結晶が殆どだ。
デパート等で売られている微細で綺麗な形の結晶は
ほとんど合成品である。

で、問題の発色は透過光でないとなかなか確認できない。
今回は白い紙の上に標本を乗せ、
下から強い光源で照らすという方法で撮影に臨んだ。
結晶の縁の辺りの薄い部分で、
確実な発色が判るのでご確認頂きたい。

原産地のロシア産が透明度が高いが、
写真のジンバブエ産の方が変色性は高いとの
ショップの店主のお言葉である。

6月の誕生石にもなっている。
写真1
写真2
(蛍光灯下)

写真3
(白熱光下)

赤銅鉱
Cuprite





Cu2O
銅といえば青や緑の発色が有名だが、
本鉱のように赤色を示すこともある。
赤銅と言ってもいわゆる赤銅色ではなく、
上質なものは透明で鮮やかな濃いスカーレットに輝いている。

産出量は多い方で、市場でも特に珍しくはない。
珍しくないだけに
なるだけ美しく完全な標本を手に入れたい。
ところが、そう思って探すと
今度はなかなか眼鏡に適うものは見つからないものだ。
大体が
1)赤味は帯びているが結晶が小さいか塊状である。
2)結晶形は完全だが不透明で赤味が少ない。
のいずれかに分類されてしまう。
どちらかといえば後者の方が標本としては楽しい。
そんな訳で写真にあるのは不透明タイプである。

引き続き良品を探しているので、
もっと美しいものが見つかればまた改めて紹介したい。
写真1
紅鉛鉱
Crocoite







PbCrO4
タスマニアの深紅の花・紅鉛鉱。
美しく、また他に類を見ない独特の風貌ゆえに
たいへんに人気の高い標本である。
私にとっても憧れの品だったが、
産地が限られているせいもあって
理想的な標本にはなかなか手が届かなかった。
以前紹介したような程度で我慢していたものである。

ところが、ぶらりと足を運んだ国際ミネラルフェアの一角で、
アメリカ人の爺さんがこの標本を
格安で提供しているのに出会ったのだ。
おそらくサイズが4センチくらいで小さいためだろう。
しかし、密集する結晶はほぼ完全形で
全体の感じもほぼ理想的と言って差し支えない。

いかにもアウトドア系の容貌の爺さんは、
にこにこ笑って更に表示価格より2割ほど安くしてくれた。

こういう出会いがあるのが、大規模な展示会の醍醐味である。
次回の開催の折にはサイトで告知するので、
ぜひ皆さんも訪れてみて頂きたい。
写真1
写真2
ゴシュナイト
(緑柱石)
Goshenite (Beryl)


Be3Al2Si6O18
無色透明な緑柱石(ベリル)、
アクアマリンの項で少し触れたゴシュナイトである。
ご覧の通り美しい鉱物なのだが、
エメラルドやアクアマリン、ヘリオドールに比べると
色がない分どうしても宝飾的な価値は乏しい。

ゴシュナイトには副成分としてセシウムを含むものがあり、
写真の標本もそうである。
ラベルには含セシウム・ゴシュナイトと明記されている。
写真1
写真2
石膏
Gypsum







CaSO4*2(H2O)
石膏については
雪花石膏・繊維石膏・透石膏と様々なタイプを紹介してきた。
ここに紹介するのは、この千の仮面を持つ鉱物の中でも
変わり種のひとつである。
くすだまのようなボールから、
何だか大きな突起がにょっきり突き出ている。

これは要するに石膏の板状結晶が集合して
球状になっているのだが、
どういうわけかそのうち一部の結晶だけが
無闇に大きく成長してしまったものなのである。
「ひとつ」ではなく「一部」と言ったのは、
突き出ているのが双晶だからだ。
写真2を見て頂くと判るように、横から見ると矢筈状になっている。
2枚の板状結晶が背中合せに貼りついているのだ。

これは5センチ程の標本だが、
「楽しい鉱物図鑑2」のコラムには、
同タイプのもっとダイナミックなものが紹介されている。
このような形をなす理由についても堀秀道先生が考察されているので、
どうかぜひ参照して頂きたい。
写真1
写真2



藍鉄鉱
Vivianite






Fe3(PO4)2*8(H2O)
ヴィヴィアナイト(Vivianite)という洒落た英名の鉱物。
実は本鉱には一風変わった特徴がある。
掘り出された時点では無色なのに、
その後だんだん藍色に染まってくるのだ。
色が濃くなった後には次第にもろくなり、
最終的にはボロボロになってしまうことも稀ではない。

このような性質のため、稀産ではないにもかかわらず
美品にお目にかかることはそう多くない。
写真に示したものは透明感が残っているが、
いずれ全体が青黒くなってしまうだろう。

化学式にあるように、鉄の燐酸化合物である。
ご存知のように燐は骨や歯に含まれているため、
化石が変化して藍鉄鉱を生ずる場合がある。
殊に貝化石がそのまま藍鉄鉱になる例は有名で、
貝オパールと並び、珍品として出まわっている。
写真1
写真2