Notes/19
藍銅鉱
Azurite





Cu3(CO3)2(OH)2
box5で美品を探していると書いた藍銅鉱である。
ナミビア・ツメブ産のこの標本はまず文句なしの美品だろう。
しかし決して高価な物件ではなかった。
結晶が小さいのである。

透明な赤いセロファンを数百枚束にすれば、
もはや向こうは透けて見えず、濃赤色の板になる。

鉱物の場合も同様で、結晶が分厚く大きくなればなるほど
色味は濃くなるが透明感は失われてしまう。
box5の写真と比べて頂きたい。
結晶が小さくなっている分、
透明感と鮮やかさが増していることがお分かり頂けるだろう。

結晶せずに孔雀石Marachiteと混ざった状態で産出することがあり、
このようなものは両鉱の名前を取って
アズロマラカイトAzuromarachiteと呼ばれる。
写真1
写真2
淡紅銀鉱
Proustite






Ag3AsS3
濃紅銀鉱の項で触れた、
ルビー・シルバー一方の雄である。
濃紅銀鉱Ag3SbS3のアンチモンSbを
砒素Asに置き換えた構造になっている。
この2種の元素は鉱物界では比較的頻繁に置換されている。

淡紅銀鉱の方が発色が鮮やかで経年変化が少ないため、
人気は高い。
さらに言えば稀産でもあるので、
値段もそれなりに高騰していることは前にも述べた。

しかし購入した際はモロッコでまとまった量の産出があったらしく、
ちょっとこなれた価格になっていた。
もっとも、こなれている分結晶は小さい。
写真の結晶塊は実に長辺5ミリ程の標本である。
ぱっと見キラキラ光る屑みたいなものだが、
ルーペで覗くと白銀と濃赤色の見事な競演が見られる。

非常に美しい金属鉱物である。
写真1
写真2
アウイン(藍方石)
Hauyne






(Na,Ca)4-8Al6Si6(O,S)24(SO4,Cl)1-2
アウインHauyneは
フランスの大鉱物学者アウイA.R.Hauyにちなんだ名前である。
元がフランス語だからHを発音せず、アウインなわけだ。

ドイツのEifel地方の名物で、
軽石質の岩石の隙間に微細な結晶が詰まっている。
「アイフェルのサファイア」の異名を持つ美麗な鉱物なのだが、
いかんせん小粒すぎる。

ショップには時折濃青色の分離結晶がケースに入って並んでいる。
宝石然として非常に美しく、
また実際に宝石としても利用されるのだが、

いずれもせいぜい2、3ミリ程度の大きさしかない。

といって母岩つきの標本の場合、
相方は軽石質のごつごつした溶岩になる。
背景としてあまり色気がない。
本標本は結晶の色が薄いが、
母岩とのバランスが良かったので入手したものである。

分類的にはbox20で紹介する方ソーダ石のグループに属する。
ラピスラズリなんかに近縁の鉱物である。
写真1
写真2
サーピエリ石
Serpierite







Ca(Cu,Zn)4(SO4)2(OH)6
*3(H2O)
銅の二次鉱物の肉眼鑑定はお手上げに近い。
ことに青緑系のそれと来たら。
孔雀石を筆頭に、既に紹介した水亜鉛銅鉱や翠銅鉱をはじめ、
ブロシャン銅鉱にデビル石、クリソコラ、
果てはトルコ石のご一統様も含めることが出来る。
産状もそれぞれが針状から塊状、皮膜状と色んな顔を持っている。
まったくもって迷惑千万。

サーピエリ石もまた、
そんなエメラルドグリーンの銅の二次鉱物のひとつである。
写真の標本は細かい透石膏の結晶の中に、
1ミリ程の青緑色のつぶつぶが点在しているものだ。
拡大するとご覧のようにまりものようになっている。
細い針状結晶が集合して球体をなしているのだ。

母岩とのコントラストが非常に美しい物件だが、
いかんせん結晶が小さいのと
母岩に対する執着心がいまいち希薄なのである。
撮影中にも1〜2個のまりもが落っこちてしまった。
落ちたら最後、埃程度の大きさのものなのであっけなく見失ってしまう。

今回、意図した訳ではないがミクロサイズの標本が多いな。
写真1
写真2
ベスブ石
Vesuvianite






Ca10Mg2Al4(SiO4)5
(Si2O7)2(OH)
ベスビアス火山で最初に発見された本鉱は、
非常にポピュラーな珪酸塩鉱物である。
日本でも各地で産出が報告されている。
結晶も比較的よく見られ、
その面構えはなかなか堂々としており、風格もある。

しかしその肉眼鑑定は一筋縄ではいかない。
ベスブ石はよく化けるのだ。
標準的な結晶ですら、写真のような柱状のものと
逆に柱面のほとんどないそろばん玉状のパターンに大別される。
色は多くは黄色から褐色で不透明だが、
微量元素や何やらの働きで青だの紫だのにも染まる。
ここに示した標本も赤褐色透明で、
マンガン重石のような雰囲気である。
ラベルにベスブ石と書かれていたのでちょっと驚いた。
まったく油断も隙もない。

青色のもの(シプリン)をはじめ、
透明なものは宝石にもなる。
宝石関係ではベスビアナイトというより
別名のアイドクレースIdoclaseの方が通りがいい。
写真1
写真2
自然銀
Silver







Ag
自然銀といえばここという有名産地、
ノルウェーのKongsberg産の樹状結晶である。

貴金属としての珍しさを主張している訳でもなかろうが、
銀はこのような細くてごちゃごちゃした感じの産状が多い。
金と同様に柔らかく丈夫なので
叩いたり引っ張ったりしても砕けたりちぎれたりせず、
平たくなり延びる。
これを展性・延性という。
このために長く延びた結晶がぐにゃぐにゃと曲がっている場合も多く、
そういうタイプの産状はヒゲ銀Wire Silverと呼ばれる。

ご存知のように銀の保存は少々やっかいだ。
空気中の酸素と結びついて酸化し、黒ずんでしまう。

中世ヨーロッパの貴族社会では銀食器が愛された。
これは銀そのもののステイタスもさることながら、
「食器を常にぴかぴかに磨かせておく使用人を雇えること」が
重要だったらしい。
それによって家の格式が判るという寸法である。

大変なのね、貴族社会って。
写真1
写真2
菫青石(アイオライト)
Cordierite(Iolite)






Mg2Al4Si5O18
box5で紹介した桜石の、
桜の花びらの雛型を作ったのはこの菫青石である。
鉱物名としてはコーディエライトであるが、
写真のような透明で美しいものは
一般にアイオライトの名で出回っている。

すみれ色の石という和名は美しいが、
写真をみると肝心のすみれ色の染まり具合がちょっと妙である。
殊に写真1の方はほとんど無色透明に見える。
これは本鉱の最大の特徴である多色性のなせる業だ。

鉱物の結晶には、ある方向から見るのと
別の方向から見るのとで、色が違って見えるものがある。
このような性質を多色性と呼び、
さまざまな鉱物にみられる現象である。
菫青石はこれがもっとも顕著なもののひとつなのだ。

宝石として使う場合、職人は注意して
もっとも美しく見える方向を探してカットし、
台座に固定しているのだった。
写真1
写真2
異極鉱
Hemimorphite




Zn4Si2O7(OH)2*2(H2O)
box1で紹介済みの異極鉱の、ちょっと面白い標本である。
タイプとしてはbox16の石膏と同じたぐいのものだ。
集合してイガグリ状になっている結晶のいくつかが、
てんでに自己主張をはじめて成長してしまったのである。

本鉱も非常にさまざまな産状を示す。
標本として見かけるものは、
もっと細かい結晶が集まって
半球状や腎臓状になっているケースが多い。
色彩も結構さまざまである。

それにしてもこのような清楚な結晶が、
亜鉛という金属を主成分とする鉱物である事実は
今更ながらちょっと不思議な気がする。
写真1
写真2
銀星石
Wavellite







Al3(PO4)2(OH,F)3*5(H2O)
銀星石とは素敵な名前だ。
細い針状結晶が集合して絹糸光沢を放つさまは、
確かに銀色の星と呼ぶに相応しい。

ところが生憎と銀星石の色彩は銀色とは限らない。
明治時代に知られていたボヘミア産の標本が
たまたま無色であったため、
うっかりこういう和名がついてしまったのである。

美しい鉱物だが、産出は多いので非常に安価である。
ショップでも一山いくらの値がついていることが多い。
ぞんざいに売られていると
それなりのものにしか見えないので、
安くてもさほどの人気はない。

しかしお気に入りの一片を見つけたら、
ぜひ買って帰ってじっくりと眺めてみて頂きたい。
鉱物の結晶の面白さが伝わってくる筈である。

価格的にもお勧めの一品でございます。
写真1
写真2
青鉛鉱
Linarite





CuPbSO4(OH)2
本稿も「緑や青の鉱物を見たらまず銅だと思え」の見本のひとつで、
銅と鉛の硫酸塩鉱物である。
そのためかやや色味は藍銅鉱に近い。

写真の標本は「楽しい鉱物図鑑」に紹介されているのと同じ
ニューメキシコのBlanchard鉱山産で、
方鉛鉱が変質して出来たものである。
ひっくり返すと底には方鉛鉱の銀色の輝きが認められる。
共産している透明な鉱物はおそらく硫酸鉛鉱であり、
写真には写っていないが
やや緑色を帯びたほたる石らしい結晶も付随している。
あらお買い得。

これら微細な共産鉱物は
岩石が出来た経緯をも語っており、
ルーペで眺めていて飽きない標本である。
写真1
写真2