Notes/1
氷州石/
アイスランド・スパー
(方解石)
Iceland Spar
(Calcite)

CaCO3
教科書でもおなじみ、マッチ箱を潰した形の方解石である。
ところが方解石は別にこういう形に結晶はしない。
犬牙状や釘頭状と呼ばれる
別の結晶形を示すことが多い。
ただ、一定の方向に割れやすい性質(へき開)があるため、
割っていくと簡単にこのマッチ箱型が出来あがるのだった。

透明な方解石をこの形に割ったものをアイスランド・スパーと呼ぶ。
写真2に示したように、強い複屈折性があるため
下のものが二重に見えるのはあまりにも有名。
写真1
写真2
バナジン鉛鉱
Vanadinite




Pb5(VO4)3Cl
化学式にあるVという見慣れない元素記号はバナジウムを表す。
北欧神話の愛と豊饒の女神バナジスに因んだ命名だという。

この標本では色鮮やかな六角柱状の結晶が目を奪う。
ひとつの結晶は3ミリ程度の大きさだが、
黒褐色の二酸化マンガン鉱の表面に群生している様は美しい。

白い重晶石の表面に
微細な小結晶が一面についている美しい標本もあり、
どちらを購入しようかずいぶん迷った。
決め手になったのは結晶のアメのような独特の質感である。

好きな鉱物のひとつだ。
写真1
写真2

硫黄
Sulpher


S
硫黄(S)だけで出来た元素鉱物である。
硫黄の標本は結晶あり粉状あり皮膜状あり
透明あり不透明ありと千差万別であるが、
色はたいがいどれもやや寒色系の独特の黄色を示す。
透明なものはちょっとハチミツみたいな印象がある。

硬度2前後と爪よりも柔らかいので、取り扱いには注意が必要。
学名のSulpherは、
あの「サルファ・レゾルシン処方」のサルファである。
写真1
写真2
異極鉱
Hemimorphite



Zn4Si2O7(OH)2・H2O
鉱物の結晶には上下左右の方向がある。
大概は軸を中心に対称形になるものだが、
中には違う鉱物もある。
例えばこの鉱物は一方が平らで片一方がとがるという
ホームベースを縦に伸ばしたような結晶形をとる。
このため「異なる極を持つ鉱物」という意味で
異極鉱と呼ばれているのだった。

この標本では透明な平板状結晶の森のなかに
先の尖ったものと平らなものがいっしょくたに生えており、
名前の由来が少しわかりやすい。
写真1
写真2
孔雀石
Malachite
珪孔雀石(クリソコラ)
Chrysocolla




Cu2(OH)2(CO3)
[孔雀石]

Cu2H2Si2O5(OH)4・nH2O
[クリソコラ]
標本は孔雀石と珪孔雀石の共産する
ぶどう状の結晶集合体である。
この手の産状は微細な針状結晶が集合して
球体をなしている場合が多い。

珪孔雀石(クリソコラ)Chrysocollaと
孔雀石Malachiteとの違いは
前者は珪素Siを含んでいる点である。
肉眼的にはクリソコラは結晶を示すことが稀で、
マラカイトグリーンの孔雀石よりもやや青味が強い。

以前クリソコラの標本であると紹介していたが、
どうも全体の産状が孔雀石っぽいため
ラベルを見返してみたら
下の方に孔雀石の名も併記されていた。うっかり。

そんな訳なので、
これは一般的なクリソコラの標本とはちょっと異なる。
機会があればクリソコラ単品の標本もまた紹介したい。
写真1
写真2
閃亜鉛鉱
Sphalerite




ZnS
黄金色の黄鉄鉱と鉛灰黒色の閃亜鉛鉱の組み合わさった
美しい標本である。
色が黒っぽいのは鉄分を含むためで、
鉄分の少ないものは色が薄くなる。
やや透明感のある褐色を示すものは
べっこう亜鉛と呼ばれたりもする。

化学式を見ると硫化亜鉛という非常に単純な組成だが、
その顔はさまざまであり
肉眼での鑑定は容易ではない。
我々素人衆はラベルを信じるしかないというものだ。

亜鉛の主要鉱石である。
写真1
写真2
ベレムナイト・オパール
Opal










SiO2・nH2O
ベレムナイトというのは古代に生息した生物だ。
この生き物の殻の部分がオパールに変質したものが、
ここに示す標本である。
オパール化した化石なのだ。

以前、これを貝オパールであると解説していたが
ベレムナイトは厳密には現生の貝類とは異なるので
ちょっと訂正しておく。

貝オパールはオーストラリア産の巻貝のオパールが
標本市場に出回っているが、少々値が張る。
といっても、カットされた宝石よりはだいぶ安いのだけれど。

幻想的な色彩を帯びた古代の貝殻は、
作家・宮澤賢治にこよなく愛され
いくつかの小説に登場している。

宝石として名高いオパールは
水を含んだ珪酸という化学式で表される鉱物だ。
乱暴な言い方をしてしまえば
「完全に固まる前の水晶」みたいなものだと思えばよい。
構造的には非常に微小な珪酸の分子が規則正しく並んでおり、
ここで光の回折が生じてさまざまな遊色(イリデッセンス)を示す。
オーストラリア産とメキシコ産が有名で、
生成条件の違いから前者はおとなしめの、
後者は派手で細かい遊色を示す。
日本でもいくつか産地が知られている。福島県宝坂のものは有名。

ちなみにオパールは水を含んでいるため保存にやや問題があり、
乾燥すると容易にひび割れを起こす。
ショップでは小さな瓶に入って
水中に沈んでいる標本が売られているが、
こうしておくのが一番問題がないそうだ。
写真1
写真2
天青石
Celestine


SrSO4
美しい名前の美しい鉱物だが、硬度3〜3.5と柔らかい上に
へき開が完全なため非常に割れやすく、宝石にはなりえない。
このように柔らかい石は、
カットするとすぐエッジがこぼれてしまうのだ。

化学式のSrは炎色反応で有名なストロンチウム。
従って化学組成的には硫酸ストロンチウム鉱ということになる。
そう言ってしまうとあまりに色気がない。
ここは天青石の命名者に拍手を贈りたい。
写真1
写真2
水晶
石英
Rock Crystal
(Quartz)





SiO2
黄鉄鉱が金属鉱物標本の王者なら、
水晶はまさしく鉱物標本の王者である。
その清楚なたたずまいは古くから多くの人々に愛され崇拝されてきた。
クリスタルという呼び名は
氷を意味するギリシャ語のkrustallosに由来するものだ。

化学組成的な分類としては石英(クオーツ)という鉱物になる。
石英の肉眼的な結晶を水晶と呼ぶのだ。
ちなみにいわゆるクオーツ式の時計には現在
合成水晶が使用されている。

鉱物資源としては世界的に多産するために、
まったく加工されていない原石の値段はびっくりするほど安い。
写真2の見事な群晶標本もせいぜい数百円程度で手に入る。

但しアメシスト(紫水晶)シトリン(黄水晶)等の
色のついたものはやや稀産であるため、
人造品や無色の水晶を加工したものも多く出回っている。

写真1の山梨県産をはじめ、日本でも多くの産地が知られるが
現在国内では水晶を目的とした採掘は行われていないそうだ。
写真1
写真2
黒曜石
Obsidian









手元の図鑑を見ると
黒曜石の名は鉱物のページには見当たらない。
代わりに岩石のところに「黒曜岩」なる名前のものが記載されている。

このへんの定義づけはややこしいのだが、
要するにそのへんの石というのは基本的に岩石で、
その岩石を構成する物質が鉱物なのである。
資料に従えば、ここでも「黒曜岩」として話をすすめるべきところだ。
しかし一般的に黒曜石という名前の方が知られているので、
とりあえずこっちを使わせてもらうことにする。
MS-IMEでも一発変換するし。

黒曜石は火山岩の一種である。
火山岩は溶岩が冷えて固まったものだが、
この時溶岩中の成分が結晶するよりも早く冷え固まってしまった場合、
含まれるニ酸化珪素SiO2が非晶質のままガラス化してしまう。
これが黒曜石なのだ。

なんだかわかったようなわからないような説明だが、
手っ取り早く言えば天然のガラスだと思えばいい。
写真からもそのガラス様の質感はおわかり頂けよう。
このいかにもガラスっぽい割れ方は貝殻状断口と呼ばれ、
岩石鉱物を分類する際の特徴のひとつである。

ガラスの癖に黒いのは含まれる微粒内包物
(インクルージョン)のためで、
場合によっては様々な模様や色彩を示す。

その固さと透明感、破片の鋭利さから
有史以前より石器や装飾品として利用されてきた、
人類にはかなりなじみの深い岩石である。
写真1
写真2