Notes/20
硫酸鉛鉱
Anglesite



PbSO4
3度目の登場になる硫酸鉛鉱である。
モロッコ産の本鉱といえば有名産地の有名標本。
今回なかなか素敵な群晶が手に入ったので紹介させて頂く。
中央に見えるのはほぼ完全な結晶形だ。
この形と光沢の感じは、
どこに出しても恥ずかしくない
本鉱の標準的な結晶標本といえる。

ただしbox19の藍銅鉱同様、母岩を含むサイズは3センチ程度で
あまり大きくない。
標本の値段の基準はさまざまだが、
本鉱の場合、だいたい結晶の大きさに比例して高くなるのだった。
写真1
写真2
含クロムくさび石
Cr-Sphene(Titanite)







CaTiSiO5
鉱物には複数の名前をもつものが少なくない。
そのいくつかは、鉱物としての名前と
宝石・貴石としての名前が違うケースである。

カルシウムとチタンの珪酸塩鉱物である本鉱は、
鉱物としてはチタナイトという名前がポピュラーだが、
宝石・貴石としてはスフェーンという名前の方が通りがいい。

和名もくさび石と呼ぶ場合とチタン石と呼ぶ場合がある。
くさび石はくさび型の結晶になることが多いため、
付けられた和名である。
スフェーンもくさびを意味するギリシア語の
sphenosに由来する名前だ。

化学式中のチタンは一部が他の鉱物に置き換わることがあり、
マンガンMnを含むものをGreenovite、
イットリウムYやセレンCeを含むものには
Keilhauiteという亜種名がある。
それぞれ独特の色彩を帯び、美しい。

写真の標本はクロムを含むために
鮮やかな緑色に発色したものである。
写真1
写真2
水晶(山入水晶)
Quartz







SiO2
こういう飴があるなあ、と思って手にとった。
梅干入りのアレである。

水晶はしばしば
一度結晶したものが再び成長する、という現象を示す。
このとき以前の結晶の輪郭が内部に残っていることがあり、
水晶の中にもうひとつ小さな水晶が入っているように見える。
このようなものを山入水晶とよぶ。

写真の標本は最初の結晶を
酸化鉄か何かの赤褐色の膜が覆った後、
再成長したもので、
従って山が赤く染まってみえているのだ。

ちなみに再成長とは言っても地学的な単位の時間が必要で、
手元の水晶がある日突然育っていたというようなことはない。

2001年12月のミネラルショーでは、
図鑑にあるような美麗な山入水晶が
かなりこなれた値段で出ていた。
欲しいと思っていたのだが、
他を回っているうちにすっかり忘れてしまった。
今思い出して悔しがっている次第である。ちくさう。
写真1
写真2
方ソーダ石
Sodalite










Na8Al6Si6O24Cl
ソーダライトの名で広く出回っている。
お守りや宝飾用としては大して高価ではないものの
それなりの値がついているが、
標本商に行くと腰を抜かすほど安い。
産出が多い上に、
肉眼で見えるような結晶をすることが稀だからだろう。
ものの本によればまれに斜方12面体の結晶を示すらしいが、
私はまだ見たことがない。

ソーダは以前も述べたようにナトリウムNaの別名であり、
本鉱がナトリウムを主成分としていることに因む。
「方」は方鉛鉱や方沸石、方トリウム石などと同様、
この鉱物の結晶パターンが
等軸晶系に属することを意味している。

結晶系について詳しく述べていると
コンテンツが丸々ひとつ必要になるので端折って言うと、
鉱物の結晶の形には法則性があり、
どんな鉱物でも必ず幾つかのパターンのうち
どれかに分類される。
等軸晶系はそのパターンのひとつの名前なのだ。
代表的なものに黄鉄鉱がある。

方ソーダ石はまたグループ名でもあり、
同じ仲間にはラピスラズリも含まれる。
それかあらぬか、
色の濃い本鉱は古来
ラピスの代用品として使われてきたのであった。

まれに紅色を示すことがある。
写真1
写真2
エトリング石
Ettringite

Ca6Al2(SO4)3(OH)12*26(H2O)

南アフリカの名産品のひとつ。
本来は無色の鉱物だが、鉄分が加わると黄色味を帯びる。
写真の標本はちょっと控えめなレモンイエローに発色している。
もっと派手な色が見たい方は
「楽しい鉱物図鑑2」に紹介されているのでご覧あれ。

特徴的な六角柱状は、上で触れた結晶系で言うところの
六方晶系の証である。
この仲間には水晶や緑柱石が含まれる。
それらの結晶の形を思い浮かべて頂きたい。
写真1
写真2
ほたる石
Fluorite








CaF2
ほたる石は非常に色彩豊かな鉱物であるにもかかわらず、
なぜか今まで緑色系のものしか紹介していなかった。
今回、濃紫色で見事な立方体に結晶している標本に出会ったので、
3度目の登場となった次第である。

結晶の大きさは一辺が1.5センチ。
水晶や方解石の母岩に埋もれている姿は
なかなか見ごたえがある。
母岩自体がスカスカなので、
ひっくり返すと裏側にちゃんと結晶の裏側が見える点も楽しい。

拡大写真で見ると、
何重かの帯のように色が分布しているのがお分かり頂けよう。
帯状構造と呼ばれるこの現象は、
山入水晶同様結晶が成長してきた証なのかもしれない。

当コンテンツでは、鉱物の相場は産出量によって変動するため
あまり具体的な値段を記すことは避けている。
しかし、この見事な宝石並の標本が
箱入りラベル付き1000円であったことは、
覚書として書いておきたい。

上を見れば確かにキリがないが、
鉱物収集は決して金持ちの道楽ではないのである。
写真1
写真2
鶏冠石入り方解石
Realgar in Calcite





[鶏冠石]AsS
[方解石]Ca(CO3)
ほたる石に続き、中国は湖南省産の標本である。
国土が広いだけにさまざまな資源が眠っている。
頼もしい限りである。

以前、やはり湖南省の石黄入りの石英を紹介したが、
今度は鶏冠石入りの方解石だ。
透明なので一瞬水晶かと思いがちだが、
結晶の形がちょっと違う点に留意されたい。
方解石は水晶と同じく六方晶系である。
しかしこのような柱面のない先の尖った形は
犬牙状と呼ばれ、方解石のもっともポピュラーな結晶形なのだ。

それでも不安な場合は表面をちょっと引っかいてみるとよい。
水晶のモース硬度は7と高いが、
方解石は3しかない。簡単に傷がついてしまう。

方解石や水晶に限らず、鉱物はときにさまざまな他の鉱物を含む。
こうしたインクルージョン専門のコレクションも面白いかもしれない。
写真1
写真2
アクアマリン(緑柱石)
Aquamarine(Beryl)



Be3Al2Si6O18
以前に紹介したアクアマリンはあまりに無色透明だったが、
今度はちゃんと淡いブルーに色づいた六角柱の標本である。
実際かなり淡いが、天然のアクアマリンの色はまずこの程度だ。
宝石にする場合は
加熱処理などで色を濃くしているのである。

宝石のアクアマリンも美しいが、
この天然の淡い水のような発色も
負けず劣らず美しいと私は思う。

結晶表面の黒い鉱物は鉄電気石schorl。
ここでは脇役として標本を引きたてている。
写真1
写真2
ネフライトひすい(軟玉)Nephrite








[緑閃石:Actinolite]
Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2
box17では硬玉の方の翡翠を紹介した。
こちらが軟玉の方のひすいである。
どちらを好むかはお国柄によるようで、
中国では古来玉といえば軟玉であった。

鉱物としては緑閃石Actinolite(アクチノ閃石)の緻密なものにあたる。
緑閃石は透緑閃石ともよばれ、
角閃石グループの透閃石のマグネシウムの一部を
鉄で置き換えた鉱物をいう。ああ、ややこしい。

緑閃石自体の産状はさまざまで、
繊維状集合体がもっともポピュラーだが
柱状や針状にもなるし、
軟玉のように緻密な塊状にもなる。

なお、緑閃石は陽起石の別名がある。
これは陽物を起たせる石の意で、
古代バイアグラ代わりに使われていたことに由来するらしい。
とりあえず医学的根拠はないようなので、
それ目的での服用はおすすめしない。

硬玉は未加工の原石を紹介したが、
やはり翡翠は磨いてなんぼの美しさなので
今回は片面を研磨したものを見て頂くことにした。
緻密な構造ゆえの滑らかな質感がお分かり頂けるだろうか。
写真1
写真2
閃亜鉛鉱
Sphalerite






(Zn,Fe)S
box1で触れた、これがまさしくべっこう亜鉛である。
ここまで行くとべっこうというよりむしろ琥珀に近い。
あの黒っぽくて重量感のある標本と
同じ鉱物だと言われてもピンと来ない。

この色の差は既に述べたように、
含まれる鉄分の量の違いである。

ところでべっこうは鼈甲と書き、
海亀のタイマイの甲羅の加工品である。
タイマイ自体の生息数が減少しているため、
象牙同様に忌避されている素材でもある。
現在売られているべっこう様のアクセサリーは
全て樹脂製なわけだが、
誰かこのべっこう亜鉛を加工して商売にしようという猛者はいないものか。

とか思ったが、硬度が低くてもろいので
全然加工には向かないのだった。
くぅ。残念。
写真1
写真2